毒を喰らわば邪魔な皿

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ベラに今すぐ植えるのをやめろと訴えようと思ったが、彼女は実兄の婚約者、僕が口に出せば実兄と対立することになる。 使用人に言っても、嫌われ者の王子と未来の国母ならば誰も耳を傾けはしないだろう。 ならば父上……国王陛下? でも陛下が僕の謁見を許してはくれないだろう、では実兄? いやそれも同じことだ。 誰か、誰か僕の言葉に耳を傾け信じてくれる人物は── 「アルバート殿下?」 「……申し訳ありません、急用を思い出したので」 「そうでしたのね、それではごきげんよう」 穏やかに笑うベラ、そして宮殿に背を向けて、鞄を抱えて走り出す。 コナー、コナー、コナー・インターク! 僕の言葉を聞いて、信じてくれる、そして国中から信頼されている英雄コナー・インタークならば! 駆け足で騎士の宿舎を目指していると、前方から走ってきた馬が雄叫びを上げて制止し、そして馬から身を翻し降りてきた人物は僕の方へと駆け寄ってきた。 「アルバート殿下! このような場所でお一人でどうされたのですか!?」 「ああ、コナー! コナー・インターク、君に会いたかったんだ!」 普段走り慣れてない僕が鞄を抱えて膝を付けば、すぐに眼前に現れたコナーは「殿下が私に?」と嬉しげに表情を綻ばせる。 「うん、コナー……僕の……はあ、はあ……いや、私の言葉を信じてくれるか、インターク卿」 「……今は私と殿下だけです、お話しやすいお言葉で構いません」 「ありがとう、コナー……聞いてくれる、大変なんだ。このままでは、宮殿周辺の全ての命が失われてしまう」 「……どういうことですか?」 呼吸を整えて、鞄から研究ノートを取り出す。 そしてアッシュスノーのページを見せて説明し、どう危険なのか、広域で死者が出てしまう可能性を全て話した。 そしてゆっくり頷いたコナーはフッと甘い笑顔を向けてきて。 「え……コ、コナー……?」 何でそんな嬉しそうな愛おしそうな表情を、今向けてきたんだ。 だって、今、何人もの命が危険に晒されていると説明したのに、何でコナーは場違いにも優しい表情で僕を見ている? 「成る程、植えるだけでは駄目だったのですね」 「え……?」 「ありがとうございます、アルバート殿下。やはり殿下の毒の知識に勝る者など居りません、感服致しました」 「コナー、なに……どうして、笑って」 「ご安心ください、殿下。私が国王陛下に説明してきます」 「本当に?」 「ええ、ですのでアルバート殿下」 「うん?」 コナーは優しい蕩けるような笑みを僕に向けて。 「うっ!? ……っ、な、に……す……る」 僕の首筋に勢いよく手刀を落とし、ブレる意識の中、甘い甘い、脳が痺れるような甘い声と優しい抱擁で僕を腕の中に収めた。 「安全な場所でお休みください」 「コ、ナ……」 「貴方様の憂い、このコナー・インタークが全て払って見せます」 まるで毒みたいな、甘やかな感覚に溺れるように意識を手放した。
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