紅 闇

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「お前はまるで蛇のようだね」  いつだったか、叔父はそんなことを私にいった。 「美しい。白い蛇のくねるさまに、お前はそっくりだ。時々見せる、そのゾッとするように冷たく……熱っぽい眼差しもね」  かつて神に創られたもののうち、最も美しいものは蛇だったのだと、叔父はそう私に言った。 「蛇はかつて、光と栄光の存在、美しい天使だった。けれど人間をかどわかして、その罪のために(けが)れ永遠に地を這うものとなった。だが地に堕ちてもなおこの生き物を美しいと思うのは……おそらく私だけではあるまい」 「……永遠に地を這うもの、ですか」  私は言った。 「では、空を見上げるのは苦痛でしょうね」  私の言葉に、叔父は少し驚いたような顔をした。  そんな叔父に、私は曖昧に微笑み返し続けて言った。 「でも蛇は脱皮をしますから……ある意味、永遠に穢れを知らぬものといってもいいでしょう。確かに、美しい生き物だと私も思います」 「……」  痛烈な皮肉に、叔父は言葉をなくして押し黙った。まったく、この男は趣味が下劣だという点以外では、本当に平凡でつまらない男だった。  そしてそれは多分……彼は私が思うほど悪人ではなかったということなのだろう。 「たとえていただいて光栄だと、そう言ったのですよ」  私はもう一度微笑み、無言の叔父に背を向けて外に出た。  穏やかな日差しの、よく晴れた日だった。  ふとその青い空を見上げ、眩しさに目を細める。  足元には、私の影が……ただ黒く黒くまとわりつくばかりだった。  まるでそこから地の底に飲み込まれていくように……それは、足元にぽっかりと空いた地獄への入り口のように見えた。
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