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「病気自体は大したものじゃない。ほんの少したちの悪い、ただの風邪だ。しかし、君の母さんは栄養失調のせいで、風邪に打ち勝つだけの体力がない。残念だが、手遅れだ。このぶんでは……最低で4日。もって、あと一週間というところだろう」
私はただ静かに、淡々と現実を付きつけた。
君がどんなふうに嘆き、どんなふうに打ちひしがれるのか……私はそんなことに興味があった。
だが、きっと泣き出すだろうと思っていた君は意外にも、一度大きく溜め息をついただけですぐに顔を上げ「そう」と、短く呟いた。
本当に……君は私なんかより、ずっと強い人だった。
だからこそ私は、君に縋りたかったのかもしれない。
「明日、薬を持ってきてあげよう。私も叔父の家に厄介になっている身だから、あまり自由が利かなくてね……その程度の世話しかできないが、許して欲しい」
「ううん……お医者様に診てもらったってだけでも、ママはあの世で鼻が高いよ」
「……そうか。ならばよいのだが」
君はそういって私を慰めてくれたが、正直、余計なことをしてしまったのではないかと思っていた。叶えられるはずのない希望を一瞬でも抱かせたとしたら……たぶんそれ以上に残酷なことはないだろう。
しかし私の心配をよそに、君の笑顔はどこまでも明るく澄んでいた。
そうして君の母親は、きっちり一週間後に死んだのだったね。
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