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君に弟妹が3人もいる……と聞かされたときは、本当に驚いた。
父はすでになく、今は二人の姉が身を売って家族を養っているのだという。つまり、6人姉弟というわけだ。一人っ子の私には姉弟というものの価値は良くわからなかったが、君は本当によく小さな弟や妹を可愛がっていたね。
「俺も働きたいんだけど、こんなやせっぽちだから力仕事はろくにできないし、学もないからどこも雇ってくれない。もう少し大人になって……立派な男の体になったらきっと稼いでみせるんだけど、それまでは姉さんたちの世話にならなきゃいけないんだ。もどかしいけどね」
「……すまないな」
私がそう言うと、君は驚いたように私を見つめたね。
「うちで雇ってやるといってやりたいが、そうもいかん」
君を……あの叔父に会わせるわけにはいかないのだよ。と、このとき私は心の中で付け足していたのだが。
君は微かに首を左右に振り、花のように微笑んでから、
「そんなつもりじゃない。何もかもあんたの世話になんて、なれないよ」
と言った。
「あんたはやっぱり、このまま医者になるんだろ?」
「それ以外にできることがないし、したいこともない。叔父は独身で跡取りがないから、このまま私に後を継がせるつもりでいるだろう。私も、それでいいと思っている」
「あんまり嬉しそうじゃないね。本当は他に、やりたいことがあったんじゃないの?」
そう訊ねられて、正直私は驚いた。
いわれてみれば、私は他の生き方など考えたこともなかったのだ。
いや、考えようとさえしなかった。
考えてはいけないと思っていた。
他を望めば……きっと今に耐えられなくなる。理想の自分と、現実の私とのギャップに……だから、考えてはいけないのだと、知らず知らず自分に言い聞かせていたのだろう。
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