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柔らかい日差し溢れる、春のはじめ。
君が逝ってしまったのは、そんな祝福されたかのように光り輝く、穏やかで……美しい朝だった。
私はこの予測された日に泣くこともなく、次いで慌ただしく行われた質素な葬儀が終わっても、まだ悲しみを覚えはしなかった。
焦がれ、欲しつづけてきた君に……棺の中、ただ美しく眠る君に、最初で最後の口付けをしたときでさえ、私の心はあまりにも静かで――空虚で。
そうしてあれから一週間が過ぎ、今私はこうして、君の墓の前に立っている。
一片の曇りもない、皇かな純白のこの墓を見たら、君のことだからきっと真顔で自分には不釣合いだと言ったに違いない。いや……今横に君がいたら、私のほうがそうやって、君には不似合いだと、憎まれ口をきいただろう。そして君は少し不機嫌な顔をして、人のことを言えた口かと、私に向って言っただろう。
そうして二人で笑って……。
君が笑って……。
それだけで、私は他に欲しいものなど何も無かった。
艶やかに咲き誇る深紅の薔薇のように美しい君だったけれど、私の目にはいつも君は真っ白で、陽の射さぬ道の片隅に揺れている、小さな花のように見えていた。
脆く、儚く……摘んでしまえば簡単に手に入れられるその花が私にはとても眩しくて、愛しくて……ついに枯れてしまうその日まで、手折る事が出来なかった。
淡い桃色の花が風に揺られて散っていく。
あまり上等とはいえない小さな墓の周りに、こんなにたくさんの花が咲くなんて驚いた。
だから私には他に君の墓に添えるべき花など何一つ思い浮かばなくて、ただこうして立っていることしか出来ないけれど……今日はずっと、君の傍にいると決めたよ。
いいだろう?
もう手の届かない遠くへいってしまった君を……もう一度、そばに感じさせて欲しい。
生涯にただ一人でも、心の底から愛する人に出会えれば、それは類稀な幸運と言えるだろう。
そんな意味では、私はきっと幸せだったのに違いない。
たとえそれが永遠に叶うことのない想いだったとしても、私は君に出会ったことを後悔したことは一度もなかった。
私のこの執着が、何処から来たものなのかはわからない。
何故、こんなにも君でなければならなかったのか……その答えはきっと誰にもわからないだろう。他人にも……そして私自身にも。
淡い桃色の花が風に揺られて散っていく。
聞いて……くれるかね?
赦してくれとは言わない……赦されたいとも思っていない。
だから、黙って聞いてほしい。
私が本当はどういう男で、どれほど君に対して残酷だったか……私は君に告白しなければならないのだ。
君のことがとても好きだった。
私には君以外、本当に何も見えていなかった。
それだけは多分、わかってもらえると思うのだが……。
楽しい話ではない。
だが……今となっては何もかもが懐かしい。
犯した罪も、過ちも……もう、私には全てがセピア色に見える。
君が死んでしまったその日から……もはや私の目には地獄の入り口以外、何も鮮やかに見えるものはないのだから。
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