プロローグ 【 中里 亜都里 】

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 四車線の道路を半分ほど渡ったところで、すさまじい音と共におじいさんが弾き飛んだ。わたしの前を銀色の車体のトラックが通り過ぎ、他の車にぶつかりながら停車した。  トラックを()けるように後続の車が次々と停車する。いつの間にかたくさんの人が弾き飛ばされたおじいさんを遠巻きに取り囲んだ。  夢だからか、濃い色はより濃く、薄い色はまばゆく、倒れたおじいさんから原色の赤がにじみ出てくる。おじいさんの手足と頭が、まるで操り人形を無造作に放り出したようにあらぬ方向を向いている。頭はひしゃげて半分潰れ、中から白っぽいものがこぼれていた。  子供の目にも、それがどういうことなのか、理解できた。  火が付いたように泣きながら目を覚ましたわたしを、父と母が困った顔で見つめていた。慰めてもらいたくて母の胸にしがみついたけれど、母が時計を見てわたしの腕を振りほどき、「亜登里ちゃん、朝だから起きましょうね」と立ち上がった。
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