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      *  翌朝、教室の窓際の席に修哉の姿を見つけると、つとめて自然な態度で机の前に立った。 「おはよう修哉、ところで質問なんだけど」  ちょっとむかつくほど端正な優等生顔を上げて、修哉が僕を見る。喧嘩の続きが勃発する前に、僕は昨日接着剤で修復した石を差し出した。 「これ、何だと思う? 拾い物なんだけど」  無表情でゆっくりと僕の手から石を受け取り、修哉はしばらく眺めた。 「岩石にパイライトと水晶が混ざってる。この金属みたいなのがパイライト」 「珍しいの?」 「いや特に。含有率が低いし。で、これが何?」  眼鏡の奥の目が僕を見る。 「いや、お姉さん、天然石のお店出してるから、修哉も詳しいかなと思って。ただの石なら、別にいいんだ」  石を受け取ろうとした手を遮られる。 「けどエネルギーバランスはすごくいい」 「え」 「持ち主にパワーを与え行動力を高めるパイライトと、生命力を高めてくれる水晶がバランスよく混在していて、持っていて悪いことはない」 「そうなのか? じゃあこの中に入って眠ってたら最強になれるな」 「で、質問ってそれだけ?」  軽く流された。 「うん、それだけ。ありがとう」  怪訝な顔をされたが、今日はここまででいい。ぎこちなかったが修哉と話せたし、この石の能力がある程度わかった。  石を受け取り、鞄に放り込む。その際手を滑らし、入っていた数学のノートを床に落としてしまった。拾おうとした僕は、開かれたページを見て思わず絶叫した。  級友たちがこちらを見たが、僕はノートをひっつかみ無言で自分の席まで走った。すぐに担任が入ってきてSHRがはじまったが、何も耳に入らない。もう一度ノートを開いて、真新しいページの文字を読む。 『じゅらじゃなくて、キラだよ。でも気持ちを分かってくれてありがとう。もう、それだけで充分』  僕のものと少し違う筆跡。でもこれは、あの手紙の端に書いた言葉への返信だ。どうやって? 僕の体に入り込んで? 夜中に?  想像に過ぎなかったが、それ以外に考えられないし、そんなことが起きてもおかしくない気がしていた。石のパワーに守られた彼の魂が、昨日のアクシデントで目を覚ました。  だとしたら、僕が僕であるとき、キラはどこにいるのだろう。石の中?  心臓はバクバクと騒がしいが、この状況を受け入れつつある自分に少し驚いていた。 『もう、それだけで充分』  あきらめに似た言葉がこの日ずっと僕の頭の中を巡っていた。  キラは生きている。  この体を乗っ取ることもできず、孤独なままこの世に存在している。生き地獄じゃないか。  力を貸してやれるのは、僕しかいない。
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