14人が本棚に入れています
本棚に追加
*
翌朝、教室の窓際の席に修哉の姿を見つけると、つとめて自然な態度で机の前に立った。
「おはよう修哉、ところで質問なんだけど」
ちょっとむかつくほど端正な優等生顔を上げて、修哉が僕を見る。喧嘩の続きが勃発する前に、僕は昨日接着剤で修復した石を差し出した。
「これ、何だと思う? 拾い物なんだけど」
無表情でゆっくりと僕の手から石を受け取り、修哉はしばらく眺めた。
「岩石にパイライトと水晶が混ざってる。この金属みたいなのがパイライト」
「珍しいの?」
「いや特に。含有率が低いし。で、これが何?」
眼鏡の奥の目が僕を見る。
「いや、お姉さん、天然石のお店出してるから、修哉も詳しいかなと思って。ただの石なら、別にいいんだ」
石を受け取ろうとした手を遮られる。
「けどエネルギーバランスはすごくいい」
「え」
「持ち主にパワーを与え行動力を高めるパイライトと、生命力を高めてくれる水晶がバランスよく混在していて、持っていて悪いことはない」
「そうなのか? じゃあこの中に入って眠ってたら最強になれるな」
「で、質問ってそれだけ?」
軽く流された。
「うん、それだけ。ありがとう」
怪訝な顔をされたが、今日はここまででいい。ぎこちなかったが修哉と話せたし、この石の能力がある程度わかった。
石を受け取り、鞄に放り込む。その際手を滑らし、入っていた数学のノートを床に落としてしまった。拾おうとした僕は、開かれたページを見て思わず絶叫した。
級友たちがこちらを見たが、僕はノートをひっつかみ無言で自分の席まで走った。すぐに担任が入ってきてSHRがはじまったが、何も耳に入らない。もう一度ノートを開いて、真新しいページの文字を読む。
『じゅらじゃなくて、キラだよ。でも気持ちを分かってくれてありがとう。もう、それだけで充分』
僕のものと少し違う筆跡。でもこれは、あの手紙の端に書いた言葉への返信だ。どうやって? 僕の体に入り込んで? 夜中に?
想像に過ぎなかったが、それ以外に考えられないし、そんなことが起きてもおかしくない気がしていた。石のパワーに守られた彼の魂が、昨日のアクシデントで目を覚ました。
だとしたら、僕が僕であるとき、キラはどこにいるのだろう。石の中?
心臓はバクバクと騒がしいが、この状況を受け入れつつある自分に少し驚いていた。
『もう、それだけで充分』
あきらめに似た言葉がこの日ずっと僕の頭の中を巡っていた。
キラは生きている。
この体を乗っ取ることもできず、孤独なままこの世に存在している。生き地獄じゃないか。
力を貸してやれるのは、僕しかいない。
最初のコメントを投稿しよう!