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 親を起こさないように早朝家を出て、バスとJR線を乗り継ぎ、目的地である白竜の滝に向かう。片道2時間。降り立った駅は民家も乏しい山の奥だった。そこからさらにバスで10分。名称天然記念物に指定されてはいるが、人気スポットとは程遠いと一目でわかる、『白竜の滝』の看板の横で下車した。  休日だというのに、入口には数人の観光客しかいない。  案内板の横の錆びたゲートをくぐり、簡素な手すりのついた遊歩道をゆっくり入っていく。梅雨あけ前の蒸し暑い日だったが、鬱蒼とした緑のトンネルを進むにつれ、ひんやりした冷気に包まれていく気がした。  しばらく坂を上っていくと、徐々に木々が開け、遠くに売店や休憩所が見えてきた。そのはるか向こうの絶壁に、S字にくねった白い滝が見えた。規模は大きくないが、ヒスイ色の滝つぼに落ちていく白い竜は、なかなかきれいだ。  観光客は10人程度。売店も閉まっていて、活気はない。  さて、どうしよう。  キラの言う崖とは? 僕は周囲を見渡した。  遊歩道にはまだ続きがあった。木で作った階段が、広場の左手に続いている。 『この奥キケン』  封鎖の理由も書いてない錆びたバリケードがあったが、僕は乗り越えてその先に進んでいく。とくに迷いはなかった。リュックの中に入れておいた石が、わずかに振動した気がする。  少し行ったところで、ポケットに入れたスマホも震えた。取り出すと、修哉からの着信だった。 「どうした?」 『何度かけても出ないから。今どこ?』 「白竜の滝の近く」  わずかに息をのむような間があった。 『白竜の滝の、どこ?』 「いったい何」 『海人が昨日見せてくれた球体の石だけど、あれちょっとやばいみたい』 「何が?」  歩きながら聞く。 『姉に今朝きいたら、それもしかしたら白竜神社の妖魔封印の石かもって。白竜の滝の上に昔、小さな神社があって、邪気を吸い取ってくれる石が奉納されてたんだけど15年前のぼやのあと消えたらしい。そのせいか、何度建て直しても木が腐って倒れるんで、何かあったら怖いから、地元の人が入口を封鎖したんだって』  修哉の声を聞きながら、周囲を見渡した。  前方に少し開けた平地があり、神社の名残の石灯篭が二つだけ、たたずんでいた。そのすぐそばは崖だ。 『誰かが盗んで社に火をつけたのかもしれないけど、あれは素人が手におえない魔を抱え込んだ石らしい。もしその石だったら……。海人聞いてる?』 「うん」  返事をしながら崖をのぞき込む。  腐葉土の急斜面で、木をすり抜けて落ちたら命がなさそうだ。ここからは底が見えない。 『だったら分かるだろ? そこに石を捨てて戻れ。そんなところにおびき寄せられてる時点で、もう海人かなり危ない。邪気にやられてるのかも。なあ、おい、聞いてるか?』
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