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「いろいろ。カクテル作ってもらうときもあるし、おススメ片っ端から呑むときもあるし」
「お酒、強いんや?」
「あ、よう言われる」
はあ、と感心したように柊莉央が頷いた。
「あのさ、なんて呼んだらええ?」
「名前が良い。莉央」
「おお、分かった」
「いりやん、って呼んでいい?」
寿輝ちゃうんかい、と思った。
「なんでもええよ」
「いりやん、俺に何か質問ある?」
ちょうどテーブルに置かれたハイボールをぐいっと口にした。莉央のグラスからは甘い香りがする。
「・・・付き合うって、どういうこと?」
「恋人がするようなことしたい。あ、でも昨日も言ったけど、セッk」
「ああああ、分かった分かった。俺もそこまではまだ考えてない」
「キスはしたいな」
口にしたハイボールをブフォっと噴き出してしまった。こんなこと、ドラマや漫画の世界だけやと思ったけど、現実でも噴き出すんやな、と思った。
「大丈夫?ハンカチあるよ」
「大丈夫、俺も持ってるから」
ハンカチで口の周りを拭いてると、莉央があきらかに考え事をしているのが分かった。顔を傾けて「んー」と唸っている。
「いりやん、いくつ?」
「23」
「俺は21歳」
「学生?」
「うん。F大」
「もともと、同性が好きなん?」
「たぶん」
「たぶん?」
「女の子見ても、なんとも思わん。高校の頃、好きって自覚したんは、男の人やった。2個上の先輩で、告白もできんまま終わったけど」
「そうなんや」
「もともとあんまり、恋愛感情持たへんのかも。頭では分かるんやけど、気持ちが動かんっていうか」
それはちょっと分かるかもしれない。
「でも、いりやんのことは、一目見て、ええなって思って」
「んなこと言われたの初めてやわ」
「なあ、付き合うルール言っていい?」
「ルール?」
思わず眉を顰めてしまった。
「うん。摺合せしよう言ったやん。えっと、月に2回以上はデートしたいです。最初のデートは俺が考えます。連絡は別に毎日やなくていい。あ、嘘。おやすみ、とおはよう、は欲しいな。あ、もし誰かと2人きりで出かけるときは、相手が男でも女でも事前に報告すること。無断で出掛けたら浮気とみなします。どんな人かも報告して。でも、あんまり想像したくないから3秒くらいにおさまる程度の文章で」
簡単なようで難しいな、と思った。
「ここまでで質問ある?」
「あ、ある」
「なに?」
「でぱこすって、何?」
「デパートで売ってるコスメ。俺、ハンドクリームとか、スキンケア、全部そこで買う」
「そうなんや」
通りで剝き玉子みたいな肌してるな、と思った。
「いりやんってさ、異性愛者やんな?」
「・・・うん」
「好きな人ができたら、ちゃんと報告してな。多分、この関係長く続かない。いりやんに好きな人ができるか、俺けっこう束バッキーやと思うから、それに耐えられんようになって俺が振られるか、それまでの間の関係やと思ってるから」
「なかなかシビアなこと考えてるねんな」
「そう予防線張っとかんと、耐えられんし」
ポツリと、落ちていく線香花火みたいな口調で呟いた莉央の顔がなんだか寂しそうに見えた。
確かに、何年も莉央と付き合っていく未来は想像できない。いや、そもそも・・・・
「いりやんが、俺のこと好きやないって、分かってるから」
気持ちを見透かされたようでギクッとしたが、いじけた口調ではなかった。
「なのに、受け入れてくれてありがとう」
「あ、うん」
自分でも何が「あ、うん」なんかなと思う。
「じゃ、俺、バイトあるからもう行くね」
「バイト?今から?」
時計の針は21時を過ぎていた。
「うん。あ、寝るときおやすみって連絡ちょうだい」
「分かった」
莉央が財布を出そうとしたので、「あ、いいよ」と制した。
驚いた顔でありがと、と言って莉央は店を出て行った。
残ったハイボールを呑みながら、俺はまだ一度も莉央の笑った顔を見ていないことに気づいた。
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