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「んー、こだわりって言うか、親からも、良いものを知っている人間でありなさいって言われて育った。やから、パロディものとか、ブランド物の偽物とか絶対許せんって家やったな。異常やと思うけど、フェイクレザーとかも受け入れられん言うて、高校生になって電車通学になったとき、定期入れ欲しいって言ったら本革のやつ買ってくれた」
「へえ、すご」
「なのに、毛皮は絶対フェイクって言うてた。意味分からん」
確かに、莉央の手首には国産ブランドのシルバーの時計が輝いていた。
「安くて良いものもたくさんある思うんやけどね、高級なものを売っている人からの扱われ方に慣れなさい、言われた」
「え、じゃあこういう缶ビールとかはあかんかった?」
「んーん。別にもう親元離れとるし、今はいりやんと一緒に楽しいことしたい」
「・・・そっか」
「やから、この後、中華街行きたい。なんやったっけ。でっかい唐揚げみたいなやつ食べたい。あと、焼き小籠包食べて、舌火傷するの」
「そこまでセットなんや」
ハハハ、と笑う俺の顔を見て、莉央が笑った。
「あっつ!熱!熱い!あっつ!」
「・・・まさかほんまにやるとは思わんかった」
焼き小籠包を勢いよく頬張った莉央が顔に似合わない野太い声を出している。
「やって、熱々のうちに食べるからええんやん。ほわー熱、喉にスープが発射された」
「ちょ、なんか冷たい飲み物買ってくるから、待ってて」
「大丈夫、いりやんも食べて」
「俺、猫舌やもん」
「裏切者」
「はっ!?なんで?」
自販機で買った冷たいお茶を莉央に渡す。蓋を開けるなりゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干していた。きっと、そのお茶のメーカー会社がきっと「こんな風に飲んでほしい」と企画した通りの飲み方やと思う。
「ぁあ゛ー、うま」
「お前、喉にオッサン飼っとるんか・・・」
「いりやんは何飲んでるん?」
「俺?コーヒー」
「一口ちょうだい」
「・・・うん」
間接キスやん、と思ってたら次の瞬間
「苦っ!!!」
と、また野太い声が聞こえた。
「なん、これ?ブラック?よく飲めるね、こんなもん」
「いや、こんなもん言うな。ブラックちゃうよ。微糖て書いとるやん」
「絶対砂糖3粒くらいしか入ってへんで、それ」
「砂糖、粒で計算するやつ初めて見たわ」
「甘いの苦手?」
「いや、好きやで。今日は暑いからスッキリしたいなー思って微糖選んだだけ」
「じゃ、今度はスイーツ食べに行きたい」
「分かった。何食べたい?」
「胡麻団子も好きやけど・・・あれ。豆の花って書いて・・・トウ、ファ?」
「あ、それ俺も好き」
「ちょっと、座りたい」
「せやなー」
観光客にまぎれて、いや、俺らも観光客やけど、ちょっと並んで席に通された。ここでお茶するんやったら、さっき自販機で買わんでも良かったな、と思ったけど、莉央の意外な一面が見られたからよしとする。
さっきペットボトルのお茶を飲んでいた姿とは打って変わって、カップの持ち方に品と育ちの良さを感じた。
「この後、どうする?」
何気なく聞いてみた。また少し歩いてみるか、それとも横浜駅の方に戻って、莉央の言う「デパコス」を見に行くのか、服を見るなら俺も、と思っていたら
「帰る」
とバッサリ言われた。
「あ、そう」
自分でも意外やった。俺、けっこう残念に持ってるやん、と。
「最初から飛ばしても、ネタが無くなったらキツいし」
「せやなぁ・・・」
「で、いつにする?」
「ん?」
「出張添い寝サービス」
思わず周りを見渡してしまった。
「声、デカいて」
「あ、ごめん」
「事前に、この日って言ってくれればいつでもええよ」
「そう言えば、いりやんってバイトは?」
「高校生の家庭教師」
「・・・女の子?」
「いや、男の子」
「・・・どっちも、嫌やな」
眉間に皺を寄せる莉央に、バレないように笑った。
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