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もっと綺麗な子は身近にたくさんいる。
そう私が言うと、彼は私の頭のてっぺんからつま先までを、何かを観察するように見つめてきた。
「そんなに見つめられるとさ……さすがに恥ずかしいよ」
「ごめんごめん」
彼は慌てたように手を顔の前で立ててから、微笑んだ。
「僕ね、サナギが撮りたいんだ」
「え……サナギって、虫の蛹?」
思わず眉をひそめた私に、彼は首を横に振って続けた。
「まだ何になるか分からない、可能性に満ちた君のことを、写真に収めたいんだ。
僕はね、陽の光を受けて舞う昼の蝶のことが――――、ううん、なんでもない」
とても同い年とは思えない、きざな言い回しだったけど、私は本当にどきどきしていた。少し気が早いけど、こんな特別可愛いわけじゃない私でも、彼のモデルとして過ごすうちに、いつか、蝶みたいに輝けるのだろうか。そう思っていた。
「――僕の写真で、君の一瞬を、切り取らせてほしいんだ」
彼はそう言ってはにかむと、首から提げたカメラのシャッターを片手で器用に切った。
「――これからも、よろしくね」
「――よろしく」
私は赤面しながら、ようやく彼の手を握り返した。
写真部のポスターの、「モデル募集中」、という簡潔で大きな宣伝文の横に、「専属」と非常に小さく書かれていたことを、私はずっと後になってから知った。
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