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影のような化け物が出るという怪談が広まった、晩夏の、とある真夜中の学校で。
私は写真部の部室から遠く離れた、反対側の渡り廊下の窓越しに、ひとりの男の子を見つめていた。
制服を着た彼の顔は年齢不相応にやつれ、目は落ちくぼんで、死人のように変わり果てていた。
かつて写真部の優しいクラスメイトだった彼は、ひとりの女の子を失って以来、人が変わったように、憤怒と狂気に染まっていた。
「この写真に写っているのは誰だ? 違う、こんなのは、僕の世界じゃない。こんな彩度、僕には要らない。彼女は、そんな見掛け倒しの高尚ぶったセピアじゃない」
私を撮った一葉の写真が見つらかず、しびれを切らしたようだ。制服の上にカメラを提げた彼は、アルバムを放り投げて、備品の三脚を蹴り倒した。
生前、彼の専属モデルだった私は、影の化け物となったいま、そのようすを固唾を飲んで見守っていた。
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