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私の大好きだったあなたよ、どうか思い出して。
ひとめ見るだけでレモネード感覚のサイダー味が浮かんでくるような、あの海辺で撮った、私を写した青春写真の、なんと子供騙しなことか。
実際の写真の先にあったのは、吐き気がこみ上げてくるような、漂着物のプラスチックや不法投棄のゴミの山、海洋生物の打ち上げ死骸、そして甘ったるい腐臭だったと言うのに。
私は自分の意思で、変わりたくて変わっただけなのに。
写真写りを良くする以上に、彼に相応しくなるために、もっと可愛くなりたくて、髪を切った。メイクを勉強した。
だけど、それが原因で、忘れもしないあの日、私と彼は初めての喧嘩をした。
彼は私のことが好きだったんじゃなくて、写真の中に、理想の女の子を閉じ込めていただけに過ぎなかった。
その日、私は不慮の事故でこの世を去り、過去の存在となった。
彼は今も、こうして真夜中の学校に忍び込んで、モデルの私と過ごした一年分のアルバムを漁って、これじゃない、これじゃないと、「蛾の蛹」の写真を探しては、喚いている。
私は私で、何度も見たその光景に、化け物となった空っぽの眼窩から、涙がとめどなく溢れてくる。
いつもなら、彼はそのままアルバムのバックナンバーを乱暴に棚にしまい込んで、去っていく。
だけど、アルバムのチェックを終えると、今日の彼は、何かが憑いたように、叫んだ。
「蛹だった彼女を返せよ」、と。
「彼女は自分で思っていたよりも明るくて素敵で輝いていて、それとは別に、確かに少し、周囲からは浮いていたかもしれない」と。
「けど、どうして、現実は、彼女を殺した!!!」と。
「僕が写真に収めた最も美しい彼女を変えたのは誰だ!!!」と。
「彼女を追い詰めたのは誰だ!!!」と。
「返せ返せ返せ、彼女を蛹に還せよ」と。
「どうして彼女は、自らを蝶と思い込まねばならなかったのだ」と。
「蛾になるのは、いけないと言うのか」と。
彼は叫びの最後に、膝を突いて慟哭した。
「…………蛹のままでいて、蛾が好きだ、なんて怒鳴って、間違っていたのは、僕の方なんだ。だから、もう一度、あの日の蝶の姿をとった君に会いたい」
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