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とにかくお金がなかった。どんなに節約しても生活費が足りなかった。
午前中に家事をこなして、午後はひたすらスーパーを回る。自転車のチャイルドシートに香織をのせて、少しでも安い食材を探すのだ。
スマホは三週連続で赤字を出した時に取り上げられた。もちろん新聞もとってない。だから、自分の足で探す。
タイムリミットは四時半。それまでには家に帰って、夕食を作り始める。
そうしないと、間に合わない。
私は鈍いから、夫が帰るまでに一汁三菜そろえようと思ったら時間がかかる。作り置きなんて愛情のある専業主婦のすることではないから、すべて一から作っていた
なにを作ろう。なにを作ろう。頭の中はそればかり。
あのころ、いつも香織と一緒にいたはずなのに、香織がどんな顔をしていたのか、全く覚えていない。
私の頭の中は、一円でも安い食材と、夕食の献立と、夫の顔色。それだけで埋め尽くされていた。
ある日の献立は、カレイの煮つけ、茶わん蒸し、もやしのおひたしと、おみそ汁。使った鍋を洗って、シンクの野菜くずを片づけて、まな板をきれいに洗ってふきあげて、やっと夕食の準備が終わる。風呂も沸かしておかなければ。
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