わすれもの

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美容室に行ってみようと思うまで、半年かかった。私の心が回復するのを父と母は辛抱強く待ってくれた。香織の面倒も全部見てくれた。小学校の入学手続きまで済ませてくれていた。実家が太かったから、私は助かった。 歯科医の受付の職を得たのを機に、私と香織は実家を離れた。と言っても父が持っているマンションに引っ越したのだから家賃はいらない。光熱費も父の口座から引き落とされている。完全な自立とは言えないけれど、何とか生活ができるようになった。 でも。 落ち着いて暮らし始めると、さまざまな破れ目が見え始めるのだ。 買い物をして夕食を作る。いくら食費をかけても、時間をかけても非難する人はいない。それでも私はどこかで怯えている。 香織は、夕食はいらないと連絡をしてきた。 誰と食事を共にするのか、私は聞くことができない。こわくて、聞けない。
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