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仕事を終えた彼が歩み寄る。
「エヴァ、帰るぞ」
「はい」
彼は付き人でもない彼女を連れて歩くのが好きで、ファンや関係者に熱愛っぷりを披露していた。
帰り道で彼女は言った。
「ディオカスト、あのね、コメディドラマに出演しないかって言われてるの」
「駄目だ」
“やめろ”ではなく、“駄目だ”だった。いつものことなので彼女は口答えしなかった。彼女は彼のために商業界で成功しているデミチ家が差し出した、トロフィーのような女だった。
ある時、彼女は彼の袂で活躍しているアクション系下積み役者が身体を作っている道場に行った。道場はディオカストの豪邸からそう遠くない所にある。下積み役者たちは、映画で見た通り、覆面と全身スーツのまま特訓していた。みんな住み込みで同じ釜飯の仲ということだった。
エヴァは軽い気持ちで訪れたのに、現場でナマの殺陣を見て圧倒された。メンバーが休憩に入ると、どうしても我慢できなくて、彼らの竹刀を拾っていた。
「イーッ」
下積みの一人が親切にエヴァに話しかけてきた。ご興味がおありですか。どうです振ってみては。
「振っていいの」
「イーッ」
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