取材記録

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俺んちの話なんですけど、相談乗ってもらっていいスか…? その、なんつーか…心霊的?な話なんスけど… いや、俺も幽霊とかオカルトなんて本気で信じてるってわけじゃないんスけど! …や、嘘ですね。すんません。強がりました。今、俺、思いっクソお化け信じてます。俺が今日××さんに相談したいことも、たぶんっつか、心霊の類いだと思うんス。 …話、聞いてくれますか!マジっスか!あざっす!!! ぶっちゃけこんなこと真面目に聞いてくれる奴なんて周りにいなくて。ビビってるって思われるのもその…あ、わかってくれますか?いやー××さん、マジ話早くて助かるっス。 あ、なんか雑談長くなって申し訳ないっス。本題いきますね。 あのー俺んち実家なんですけど、住宅街にある一軒家で。 古めの家なんスけど、所々リフォームはしてて。でも俺の部屋は古いままで、和室なんス。全面畳の部屋って今時珍しいかもしれないっスね。俺はゴロ寝も出来るし居心地良くて結構気に入ってるんスけど。 で、部屋も古けりゃ窓も古くて。旅館とかで、ガラス窓の前にわざわざ障子が張ってあるって言ったら分かりますか?あ、そうです、二重窓みたいなもんで、カーテン代わりに障子がある感じス。 さっき実家は住宅街にあるって言いましたけど、これが結構密集してて。俺の部屋の窓も、開けたら目の前に隣の家の壁がドーンってあって。景観も何もあったもんじゃないんで、普段は閉めっぱなしです。タバコ吸う時に開けるくらいスかね。 それで、問題がこの窓なんスよ。 夜、窓も障子も閉めて布団敷いて寝るじゃないスか。んで…いつだったかもう覚えてないくらい前なんスけど、夜中にションベンしたくなって起きたんスよ。で、さっさと用済ませて部屋に戻った時に、あれ?って思って。何か変だなって思って、部屋の中見渡したんス。それで気付いたんスけど、例の窓が、ぼんやり光ってるんですよね。最初は外の光が入ってきてんのかなーって思ったんですけど、どんどん目が覚めてきて冷静になってくると、違うって分かってくるんです。 さっき言ったように、窓の外は隣の家の壁がすぐ傍にあるんですよ。隣の家どころか近くの家から漏れた明かりが入ってくるような位置関係じゃないんです。もちろん近くに道路もありますけど、車のライトならすぐ遠ざかるじゃないですか。でも窓の外、ずっとぼんやり光ってるんですよ。街灯?もちろん街灯のことも考えましたよ。けど、うちの周り、街灯ないんです。物騒でしょ?でもマジで夜は家の周り真っ暗で。下手に歩いてたらスピード出してる車に撥ねられかねないっスよ。や、すんません、話が脱線しました。 それで俺、何が光ってるんだろうって気になっちゃって。ワンチャン空き巣が物色してるライトの可能性だってあるわけじゃないですか。俺、この通り体格だけはデカいんで。なんか怪しい奴がいたら声掛けてやろうって思って、窓に近づいたんですね。そしたらブワッていきなり窓に影が広がって!…あ、すんません、声デカいっスね。いやでもマジで俺ビックリしちゃって。うわって声出ちゃって、思わず後ろに下がったんスわ。言い忘れてましたけど俺の部屋二階で、窓の外にベランダみたいな誰か立てる場所もないんすよ。なのにいきなり何かの影が窓に映ったから、正直ビビりました。マジで何なのか分かんなかったんでもう黙って見てるしかなかったんスけど…影の形を改めて見たら、それ、木だったんですよ。…窓の外は壁なのに木の影が出来るのはおかしい?はは、その通りっス。俺もすぐにその木の影が実体のあるものじゃないって分かりました。近所にガーデニングやってるおばちゃんとかはいるけど、窓いっぱいに映るほどの木を庭に持ってる人なんかいなかったし、そもそも長年住んでる実家の窓に突然覚えのない木の影が映るって、その時点でおかしいじゃないですか。そうです、俺が相談したいのは、木のお化けなんです。…あ、今ちょっとガッカリしました?まあ気持ちはわかります。でもまだ話に続きがあるんで、もうちょっとだけ聞いてもらっていいですか。 俺が木の影に気付いてから、それは毎晩現れるようになりました。てか、もしかしたら俺が気付いてなかっただけで、毎晩あったのかもしれないっす。 木は、形で言うと、桜の木に近いかな?真ん中に太い幹があって、左右と上に枝葉が伸びてるような形です。それで枝先は葉っぱか花か知らないスけど、なんかこまかくて細いものがチラチラ動いてて。最初は得体の知れなさがマジで怖かったんスけど、一週間くらいかな?様子見しても何も害がない感じだったんで、そのうち俺も慣れてきちゃって。気分は花見でしたよ。これが結構、形が綺麗で、さわさわ揺れてる感じがゆったりしてて良い感じだったんスよね。時々ビール片手に眺めちゃったりして。その時期、俺、ちょっと仕事で疲れることが続いてて、気持ち病んでたんスよね。だからちょっとした癒しっつーか…そんな感じでした。 だけど、障子と窓だけは開けませんでした。何度か障子だけでも開けてみようかなって思ったんですけど、寸前で影が消えちゃったり、母ちゃんが呼びに来てタイミングを潰されたり色々あって…結局、自分では影の正体を見てないんですよ。 しばらく影を肴に楽しんでたんですけど、珍しいとはいえ、さすがに飽きてきちゃって。その頃かな、ダチに呼ばれた飲み会に適当に参加したら、怖い話を集めてるって奴に出会って。随分変わったやつがいるなと思って最初はちょっと敬遠してたんスけど、流れで話してみたら普通どころか結構明るくて気さくなやつだったんで、試しにポロッと木の影…オバケかもしれないソレの事を話してみたんス。そしたらそいつ、ノリが良いから自分も見たいって言いだして。ぶっちゃけ殆ど初対面のやつを家に呼ぶのもなーって思うところもなくはなかったんスけど…俺も変わらない状況に飽きてきてたし、けど自分で障子を開ける勇気もなかったんで、酒の勢いでそいつを家に呼んだんです。これが間違いだったのか、良かったのか、正直まだ分からなくて…××さんの意見、あとで聞かせてください。 そいつ…適当に山田って呼びますね。飲み会があったその日のうちに山田がうちに来て、影が出るまで二人で適当に飲み食いしながら待ちました。あ、部屋は暗くしてます。明るくても影は出るっぽいんですけど、暗い方がよりハッキリ見える感じなんで…影が出る時間も大体決まってたんで、その時間まで影についての今までのこととか、山田に話しました。山田は何かのネタにするのか、スマホで俺の話のメモ取ったり、時々質問もしてきました。…どんな質問っスか?えーと…なんだったかな、結構他愛もない内容だった気がします。主に実家とか土地の事ですかね。家の古さとか、何か曰くがないかとか。でも俺んちはオカルトとは無縁だし、家族からもそういう話はまったく聞いた事がなかったんで、ほとんど分かんねーって答えた気がします。 そんなんで時間潰してたら影が出る時間になって。山田に、そろそろだよーって声かけたら、あいつ、俺を部屋から追い出したんスよ。てっきり一緒に見るもんだと思ってたからちょっと焦ったんスけど、山田が、俺に何かあったら困るから、って、それだけ言って部屋の扉閉めちゃって。ここまで来て俺だけ仲間外れって嫌じゃないスか。だからすぐに部屋に戻ろうとしたんスけど、その前に障子が開く音がして、すぐあとにスマホの連写機能…カシャカシャすげー音がするんスよ。俺、やっぱりビビりなんスかね。扉にかけた手止まっちゃって、そのままバカみたいに立ってました。 それから多分5分も経ってないと思います。俺の指先が掛かった扉が急に開いてビックリしてたら、目の前に山田が立ってて。俺、山田と会ってまだ一日だし、シラフがどんなやつかわかんねーっスけど、酒飲んでた時はかなり陽気なやつだったんで、山田って普段からわりと明るいんじゃないかって勝手に思ってました。でも、扉の向こうにいた山田は、なんつーか、こう、能面…?お面みたいな顔して、立ってて。それがまた怖くて、俺、何も言えなくなっちゃって。そしたら先に山田が言ったんス。 あれ、木じゃないよ。人の手の集まりだよ。 って。 最初は山田の言ってる事が分かんなくて、何?どういうこと?何言ってんの?って…今思えば、あんなに山田を責めることなかったのに、俺、気が動転しちゃって、結構キツい口調で山田に迫っちゃったんス。でも、山田は俺に両肩掴まれても全然表情変えなくて、それがまた怖くて。とにかく説明してくれって、山田を部屋に押し込みました。押し込んだあとに、窓の外に得体の知れない何かがまだいるんじゃないかって怖くなったんですけど、障子は閉まってて、影もありませんでした。 それから山田に話を聞いたんスけど、俺が毎晩見てたもんは、木じゃなくて、さっき言った通り人の手の集まり、だって、説明されました。俺はそんなもんを毎晩酒飲みながら眺めてたのかと思ったら急に気持ち悪くなって吐きたくなりましたが、堪えました。だけど次に山田が言ったことを聞いたら、もう部屋に居れなくなって、家族がいる居間に逃げちゃいました。恥ずかしいとは思わないっス。だってあの手の塊、って言うんです。窓を開けろって、窓を開けてこっちに来いって。 山田、言ってました。窓開けなくて良かったねって。開けようとしたけど上手くいかなかったでしょう?って。 山田、口の端だけ上げながらこう言うんスよ。もう山田のことも気味悪くなっちゃって、もう何を言ったか覚えてないんスけど、なんか理由つけて帰ってもらいました。 冷静になってみれば、山田は窓を開けたと思うんスけど、無事で…何したのかとか、これからどうすればいいのかとか、聞けば良かったって後悔してます。 山田の押しがあったとはいえ、話に付き合ってくれたことにはお礼言いたいし、冷たく帰しちゃったことも謝りたかったし、だから飲み会のメンツに山田のことも聞いたんですけど、アイツ、あんだけ明るく色んな奴らと話しておきながら、誰とも連絡先交換してなかったんですよ…もちろん俺とも、です。そもそも誰が山田を呼んだのかも分からなくて、山田が何だったのかも、俺もう、わかんないです。 ××さん。山田みたいなやつ、知り合いに居ませんか?何か心当たりとか…そうですよね、さすがにここで話繋がったら出来過ぎですよね。すんません、変なこと聞いて。 あ、でも、本題は違うんです。あの、××さんって、お祓いとか、なんかそういうの出来ませんか?××さんも山田みたいに…っていうと失礼かもしれないスけど、あの、オカルト関係に強いって聞いて、紹介してもらったんで… はい、はい、そうなんです。そうなんです…山田が言う腕の塊が、また出るようになっちゃって。 俺、どうしたらいいんですか。なんで俺を呼ぶんスか。 ××さん、助けてくれませんか。お願いします。俺、まだ、死にたくないんです。 ――――――――――――――――――――――――――― 取材記録:ボツ 備考:対象者行方不明につき続行不可
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