アイちゃんは天邪鬼

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「なに読んでんの、吾一(ごいち)」  仕事の昼休憩中のこと。早々に食し終えたカップ麺をデスクの傍に、スマホに見入っていた俺の側へとやって来たのは同僚の桔平(きっぺい)。 「あれ。桔平おまえ、一服タイムじゃなかったの」 「そうだったんだけど、喫煙所行ったら部長いたからやめた」 「あー」 「それに、小野課長もいたし」 「うわ、それは休憩にならんわ」 「だろ。で、なに読んでんの。小説?」  言って腰を屈め、俺のスマホを覗き込む桔平。「愛する姫を救うため──」と、出だしの一行を口にした彼に伝える。 「これさ、アイちゃんが作ってくれた俺専用の超短編小説なのよ」 「アイちゃんって……ああ、30代半ばにして恋愛というものを諦めた吾一の恋人、AI(エーアイ)AI(アイ)ちゃんか」 「そう。アイちゃんすごいんだぜ。活字がダメな彼氏(おれ)のこと、ちゃんと楽しませちゃうんだから」  上から読んだあとに今度は下の行から読み返してみ、と桔平にスマホを渡し、俺は椅子の背面を傾けた。
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