忙しなさの中の空虚

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単身赴任して半年。 地酒やビールをお土産に何度か帰宅し、私の突然の発熱に有休を使い帰って来てくれて、その間の結婚記念日にもワインと花束を持って帰宅してくれた。 一緒にいないから玄関に入ったと同時に花束を出されると、驚きもあるし少し照れてしまったけれどサプライズみたいで嬉しかった。 なのに…半年。 単身赴任して半年経過して、週末は帰れない、なんて電話をしてくるなんてと私は少しスマホを手におかんむりだった。 「仕事だから、ね?」 「ね?…じゃないわよ!先週も仕事だったでしょ?大変だから月に一度、週末に帰って来るって約束を智希が最初に破ったの。子供達に会いたいって二週間に一度は帰って来て、ここに来て月に一度も来られないのはどうして?子供達に会いたくないの?」 昨日、接待で飲み過ぎて電車に揺られたら吐く、仕事が入って今週は無理などなどの理由で一カ月に一度は帰宅のはずがまるっとひと月、智希は週末に帰宅出来ないでいた。 やっとと思った先週末、金曜日に仕事で帰れないと連絡があり、今週はと連絡を待っていたら仕事だからね、である。 「単身赴任が長くなればそういう事もあるだろう?約束したからって毎月ちゃんと一回帰れる訳じゃないよ。」 「……それは、そうかもしれないけど…。」 冷静に言い返させれて私は言葉を濁した。 「来週は絶対帰るから!」 弱気になった私の声にここぞとばかりにご機嫌を取りに来たと分かると、少し腹も立つが相手は仕事。 智希が父として仕事をしてくれるから生活が出来ると思うと仕方ないと、ため息を吐いた。 「子供達と顔見ながら通話してあげて。週に一度は会ってたのに最近、少しずつ回数が減って寂しがってるの。来週は絶対帰って来てよ?」 「勿論!約束する。」 ビデオ通話にしてリビングに行き、スマホを子供達に渡してキッチンで夕食の片付けを始める。 賑やかな声が楽しそうに聞こえて来て、これでいいかなんて思っていた。 『疑い』の『う』の字も出て来てはいなかった。 こんなに子供達らぶで自分で言うのもなんだけど嫁らぶな夫がまさかなんて考えもしなかったから。
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