615人が本棚に入れています
本棚に追加
単身赴任一年経過
二月から始まった単身赴任は一年が過ぎて、智希は遠くにいても変わらずに結婚記念日も私の誕生日も子供達の誕生日も忘れずに祝ってくれた。
私の誕生日が水曜日で次の週末は帰って来ない予定だったので、プレゼントは当日に配達された。
子供達には直接渡したいとやらで少し無理をして週末に帰って来ていた。
本当に良い夫で良い父親なのだと再認識し、感謝の毎日を過ごしていた。
春になり春休みに帰って来た智希と少し遅い花見に子供達を連れて行き、子供達も進級し、新入社員教育と春の新規開拓で忙しいという智希が帰らない二カ月が過ぎ、少し暑くなり始めた初夏のある日、私は記憶の片隅にいる人に再会した。
「潮田?……えっ?もしかして…元宮さん、じゃない?元宮真由子さん。」
「えっ?」
いつも通りレジ打ちをしていると薄茶の革のトートバッグを肩に掛けたグレーのスーツの女性がネームプレートと私の顔をじっーっと見てるなぁと思ったら突然に旧姓を呼び話しかけて来た。
「…結婚前は…そうですけど。」
手は止めずに小さく答えてチラッとお客様を見たけど覚えがなかった。
「やっぱり!何処かで見た事あるなって思ったの!私、覚えてない?まゆこ、あなたと同じ名前で、坂上繭子。覚えてない?同じ高校の!」
言われて記憶をほじくり返し、あぁ、と思った時、レジが終わった。
「3,280円になります。お会計6番でお願いします。」
次のお客様がいたのでいつも通り支払い機に誘導すると、そのまま行ってくれたので少し安堵した。
あぁ、と思い出した記憶には確かに高校時代、同級生で坂上繭子さんという方がいた。
ただ偶然に会っても懐かしいですね、お元気そうです良かったですと挨拶する程度の顔見知りであり、特別仲が良かったということではない。
とは言え、仲が悪かったという事でもなく喧嘩した事もない。
言い合いもないし特に会話が弾んで笑い合った記憶もない。
彼女とは同じクラスになった事もなく、友人の友人の友人で廊下で友人同士が話をしている時に居合わせて同じ名前だねと言われたのが最初で、廊下ですれ違う時会釈する程度、おはようとかバイバイとか、長い会話も体育祭何に出るとか数名で会話していた時にいたと記憶している、その程度だったのだ。
だから彼女もスルーして帰ると思っていたら、帰り際にコソッとメモを渡されて仕事終わりで見るとラインが書いてあって驚いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!