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驚いたは驚いたが、仕事が終われば急いで着替えて買い物をして帰らなければならないので、そのメモを制服のポケットにくしゃっと入れて時間に追われてそのままになっていた。
もとより連絡を取る気はなかったし、連絡するにしても何を送信したらいいのか分からない。
ー『元気そうでよかったです。懐かしかったです。』
その位の言葉しか出て来ない。
高校時代にもう少し会話があってお付き合いがあればまたよろしくね、なんて打てるのかもしれないけれど、お互いに友人の連れであの頃も何となく合わないなと思っていたので話しかけもしていないのだ。
洗濯の時にポケットからくしゃけた紙が出て来て、あーと、思ったが紙にごめんなさいと謝ってから捨てた。
別に彼女が嫌いとか付き合いたくないとかではなく、接点がないからこの年齢になって何を話していいのか分からない。
あの頃の話をするにしても一分も持たない気がする。
それは彼女も同じだろうからきっとアドレスは社交辞令なんだろうなと、そう考えていたのだった。
二週間が過ぎた頃、忘れた頃に彼女はまた姿を現し、レジを普通に…いや、ニコニコの笑顔で通過して帰って行った。
(なんかいい事でもあったのかな?あんなに笑顔で。)
そう思いながら仕事を続け、終わってから買物の為に裏口から正面に周り店内に入ると何故か後ろから彼女に声を掛けられた。
「お夕飯の買物?ご結婚されたのね。今、この辺に住んでるの?」
「えっ?!あ、坂上、さん?びっくりした。」
本当にびっくりして彼女を見つめると嬉しそうに微笑んでいた。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんだけど連絡がないからどうしたのかなって。」
「あ、…あー忙しくて…。それにあの頃もお互い連絡先は知らなかったでしょう?私が連絡なんかしても会話がつまらないし…坂上さんが今、どんな生活をされているかも分からないから…忙しい時に送ったら迷惑になると思って。」
二十円引きの豆腐をカゴに入れながら、差し障りのない答えを返した。
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