単身赴任一年経過

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「あーそんなの気にしなくていいのに。せっかく偶然会えたんだからちょっとでも話しが出来たらいいなって思っただけなのよ?あの頃、お互いの友人同士がいつも廊下で立ち話してたでしょ?お互いに終わるのを待ってて。一度ちゃんと話してみたいなって思っていたのだけど私、引っ込み思案だったから話し掛けられなくて。あ!今はね、少しは強引に行ける様になったの。今ね、不動産の営業をしててね。中小企業だけど他の県に支店もあってそれなりに良い会社なの。」 そう言って坂上繭子は名刺を私のカゴの前に出した。 受け取らないと失礼かなと、少し躊躇してから手にした。 「丸川不動産…えっ!丸川、知ってる。すごい所にお勤めなのね。」 確かに中小企業ではあるが周りの県に数店舗の支店もあり、地元だけとは言えコマーシャルも流しているローカルの有名会社という不動産屋だった。 「長いだけよ。高校出てからずっとここで働いているの。最初は事務員で入ったんだけど少しずつ勉強して三十歳過ぎから営業になったの。時間も自由になるし固定給に売り上げの幾らかをプラスしてもらえるからやり甲斐もあるの。私、結婚しなかったから一人で生きていくつもりで仕事頑張ろうと思って。元宮さんは…と…もう違うんだよね。ご結婚された事は智奈(ちな)から聞いたの。」 「あぁ、智奈って加藤智奈さんね。美由紀から聞いたのかな?今も加藤さんとは連絡を取り合ってる?私は美由紀とはあけおめメールする位なの。美由紀はご主人の年賀状の準備が大変だって。だから私へは要らないわよって断ってからお互いにメールのみなの。」 高校時代の親友の芝田美由紀とは結婚後二年程年賀状をやり取りし、お互いの誕生日に電話をしていたが子供が産まれて小さい事もあり、電話は鳴れば寝てる子を起こしてしまうし愚図ってるとこではゆっくり話も出来ないしで、お互いに遠慮をして結果、年賀状も大変だから一枚でも減らそうという話になり、新年の挨拶のメールのみとなっていた。
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