忙しなさの中の空虚

2/6
前へ
/21ページ
次へ
「良かった。今日お魚で。お肉じゃ重いもんね。」 いただきますと食べ始めた夫に言い、お茶を手に前に座ると夫は本当に美味しそうに嬉しそうに食べてくれて、その顔を見れた私の方が嬉しくなった。 食事を終えるといつもはソファに行く夫が、お茶の湯呑みを手に何やらもじもじと動かない。 どうしたのかな?と片付けしながらチラッと見ると一瞬目が合う。 (………はぁ〜。変なとこで空気読もうとするんだからぁ。) 手早く片付けて湯呑みを手に前に座る。 夫は私の動きをじっと見て、やっと言葉を紡ぐ。 「あのさ…今日は部長とね、飲んで来たんだ。」 「うん。何か大事な話でしょ?そういう時は遠慮しないで声掛けていいんだってば。」 「俺のせいで忙しいわけだし…。」 「お互い様でしょ?夫婦なんだからそこは遠慮しないでよ。それで?」 「ああ…部長、事前に心構え出来てた方が良いだろうって。……えっと、テンキン、になりました。」 「てんきん?…………転勤?えっ?引っ越し?いつ?子供達の学校に手続きどうしよう?いや、するしかないけど。いつまで?あ、家は?アパート?」 私の頭の中に一気にするべき事、しなければいけない事が浮かんでは消え浮かんでは消え、取り敢えずいつまでにと聞き返した。 「あー違う。正確には俺だけだから、えっと…単身赴任。俺だけ転勤。」 「あーーー………。えっ?!智希だけ?それってどのくらい?前みたいに半年とかそういう?」 「ごめん、二年か三年、もしかしたらもう少し長くなる。」 半年程度の単身赴任は今までもあった。 支社の営業が急病で人手が足りないから応援とか、大きな仕事を任されてその仕事の間異動とか、数回は経験済みだったけど流石に三年以上と聞くと情けなくも不安が重くのしかかった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

617人が本棚に入れています
本棚に追加