忙しなさの中の空虚

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「転勤かぁ…。まぁね、会社員は仕方ないて言えば仕方ないわよね。断ったりしたら昔は首もあるなんて話だったけど今はどうなんだろうね?」 「流石にそこまではないかと。ただ期待されてのお話だからこれ以上の出世はないと思いますし部署異動位はあるでしょうね。転勤がないとこに。」 お茶を飲みながら智希の転勤の話をすると、斉藤さんもお弁当を食べながら聞いてくれていたがそこで箸を置いた。 「仕方ないよね。今の仕事が嫌な訳じゃないでしょ?旦那さんも思いっきり仕事する時期があっても良いと思うし、そりゃ家は心配だろうけどさ、昔と違って顔を見て連絡も出来るし新幹線だって速いもんだしね。」 にっこりと言われて確かにと頷いた。 自分の父も転勤が多く、ほぼ単身赴任だったが電話は夜に家電にかけるしか方法はなかった。 そう考えるとスマホ片手に向こうの状況がそれとなく見られて顔が見られて、子供達の顔も見せられて……ありがとう進化と心で拝んだ。 (そうだよね。長期の出張は今までもあったしちょくちょく帰ってくれていたし、私も数回行ったし、三年は長いけど短くなる事もないわけではないし子供達連れて夏に遊びに行っても楽しそうだしお互いいい歳なんだから、少し離れた位で大騒ぎする事もないのかな。) なんて考えられる程度には私にも余裕が出来た。 断る気はない様だしそれなら前向きに楽しく、夫のいないフリータイムだと思って恋人との遠距離恋愛だとでも考えて楽しむのもありかなと思い始めた。 「世界中に単身赴任がどれだけいると思う?それこそ外国へ単身赴任なんて日本人だっているでしょう?新幹線で行ける距離なら有り難いと思えば…ね。三年なんて直ぐよ。」 斉藤さんの励ましは私の心を前向きにした。 帰宅して夕食を作りながら智希が帰って来たらちゃんと話そうと腹を括った。 外国に行くわけではないから安心は安心。 外国だと言葉は分かってもやっぱり日本より治安が不安。 行きたくないとごねられても生活が掛かっていると思うと、頑張って戴かなければとも思う。 そう考えたら妥協案、仕方なし、多少の寂しさも出費も不安も乗り越えていくしかない。 何処の家族でもしている事だ。 「私が不安がっていたら子供達も心配するし智希も仕事に集中出来ないわ!三年会えない訳じゃないし休みには帰ってくるんだから!」 笑顔で暫くは二人で頑張ろうねって言おう、そう決めた。 そしてそれから二ヶ月後、智希は単身赴任へ。 子供達との三人の生活が始まった。 忙しさの中に紛れて少しだけ空虚な気持ちを感じながら、親子の生活は明るく平穏に過ぎて行った。 最初の半年間の話だ。
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