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「で?」
ほお杖を両手で付き、今更遅いだろうけど可愛いポーズで可愛いく微笑んで訊き返した。
「……でって?えっ?」
「どうしたいの?智希は若い女と結婚したいの?実はもう単身赴任から戻りたくなくてこっちで別の家庭を築きたいの?申し訳ないけど智希の収入でそれは無理だと思うの。いずれは限界が来てどちらかの家庭を切り捨てる日が来るわ。その時に私の方を切り捨てられたら何も知らないままの私はとても困るわ。」
「えっ!?そんなっ!切り捨てるって…。」
慌てふためいた智希が中腰になり、椅子が大きな音を出しテーブルが揺れた。
私は冷静に動いたスマホを手で押さえて智希に座る様に促す。
「落ち着いてよ。別に取って食おうって訳じゃないんだし…。裁判とかになって後で盗聴とか言われたくないから言っておくね。このスマホ、録音しているから。」
「録音…てなんで?裁判って?え…ちょ、まゆ…真由子、お願い、待って?僕は考えが追い付かない…だって、家に帰って来たら真由子がいて来てくれたんだ、嬉しいなって…そう思って…。真由子…裁判とか家庭を切り捨てるとか何の話?僕が真由子や愛華と海斗を捨てるなんて出来るはずないだろう。」
「智希が冷静になれる様に話しましょうか?あなたは一人暮らしの女性の部屋にお邪魔してるわよね。決まった相手で一度ではない。親しげに話している姿を私の友人が見たの。動画もあるわ。一人暮らしの若い女の部屋に入っておいて『何もありませんでした』で、世の中の人が信じると思う?」
静かな声で話すと部屋の中が特別、シン…と感じて、私の声がこれほど響き渡るのかと思うほどに心地よく響いていた。
智希は今度は顔色はそこまで悪くはなかったけれど、無言のままで少しは落ち着いた頭で何かを考えている様だった。
(次に出た言葉が嘘なら離婚届を叩きつけてやる!)
切り札として持参した離婚届が入っている足元に置いた鞄をチラリと見て、智希の言葉を待った。
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