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本当の事
智希の嘘を見破る為と気持ちが負けない為に、真っ直ぐにその目を射抜いた。
視線がぶつかってから智希が数秒私の目を見つめ返し、ため息と共に少し俯き項垂れた。
「はぁ〜〜。………帰れなかったのは本当にイベントとか新ビールの発売の仕事でだよ。置いてくれるお店に手伝いに行ったりとか工場に行ったりとか、平日より土曜日の方が都合の良い事が多くて土曜の遅くになっても帰ろうと思えば帰れたけど、交通費もバカにならないし少しでも浮かせようと思ったし…正直に言えばたまには夜更かししてゲームして、日曜にゆっくり起きて昼過ぎから掃除とかして数日分のおかず作って…のんびりしたい日があった。そっちに帰ってここに戻ると案外する事も多くて次の土曜は出勤だとやっぱり体はきつくて…それが交互だと本当に疲れてしまうから仕事が続いた次の週はのんびりしたかった。真由子や子供達に会いたくない訳じゃない。だけどそれを素直に話したら子供達だって真由子だっていい気はしないだろう?」
「大変なら素直に言ってくれた方が良かったよ。」
「真由子はもっと大変なのに…言えないよ。」
クシャッと前髪に触れて智希が小さく謝ったが、私は冷静なまま真っ直ぐに見つめたまま訊き返した。
「帰って来ない理由を聞いている訳じゃないのよ?あの女はなんなの?と聞いてるの。」
話を逸らす気だったのか、智希はハッとした顔を見せてからさっきより大きくガックリと俯いた。
その様子に私はキレた。
「話を逸らして『忙しくてのんびり出来ない可哀想な俺!』をアピールしてもそれは帰って来ない理由なだけで女の部屋に上がり込んでいた理由にはならないの!いい?単身赴任しててもあなたには家族がいるの。責任があるの!少しだけ家族を忘れたいとか離れているからばれなくていいだろうとか、ばれなければしてないのと同じとか考えているなら、私だって同じ事をする権利がある!」
「えっ!!ちょっと待て!真由子。まさか若い男と遊んでたとか言わない…よな?」
今日一で慌てふためいた智希が私の手を咄嗟に握った。
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