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「情けないけど…誤解されたくないから全部話すよ。始まりは彼女、鈴木麻由香さん…派遣でうちの支社に来ていて僕とはほぼ入れ違いで残り一か月あるかなって感じだったから仕事でも同じ部屋の中にいるだけで接点はなかった。」
ふむ…と小さく頷き、私は智希の話す表情を逃さない様に、しっかり見ているのを悟られない様に見ていた。
「まゆちゃん、て呼ばれててそれが聞こえるとどうしても視線が一瞬、行ってしまって……、しょうがないだろ?真由子が学生時代、周りからそう呼ばれてたんだからさ。」
「あ、あたしの所為だって言うの?」
冷静に聞いていたのに思わず声が出る。
「違うけど…いや、だからさ、学生時代の僕の癖みたいなものだし許してよ。それで目が行くと嫌でも目に入るんだ。」
「あーそうですかぁ。目に入りますよねぇ?可愛い顔が?細いスタイルが?ニコニコの笑顔がですかぁ?」
「違っ!!違う……その…彼女の…。」
「彼女の?」
「…………ミスっぷりが。」
「ミスっ…ぷり?」
(ミスっぷりってなに?造語?えっ??)
シーンとした空気の中、ミスってミス、ミセスのミス?ミス日本とかの?と訊き返すと申し訳なさそうにしかしはっきりと智希が言った。
「彼女、余りにも失敗が多かったんだよ。」
「あーそっちのミスね。は?」
思わず耳を疑ったが智希の様子から事実らしい。
「……で?ミスが多いから放っておけなくてフォローしてるうちに泣かれて感謝されて?そんで良い雰囲気で?良いわねぇ?私だって推しが困ってたらいくらでもフォローするわよ!そんな手で家庭ある会社の男性に手を出したって言うの!!あたしだって、あたしだって1日デート出来るならいくらでも推しを助けるわよ!!勘違いも甚だしい。」
「待て待て!!そもそも真由子の推しは芸能人だから会えないし真由子が助ける前に助けてくれる人はいっぱいいるから!落ち着け、な?」
「分かってるわよ、そんな事!例えでしょ!そんなの浮気の理由にならないって事を言ってるの!」
「違うって!まず聞いて、お願い、冷静に。」
振り上げた拳を握られて下に引き落とされて、肩に手を置かれて深呼吸を促された。
「派遣のね、延長は無理みたいで根はいい子だし頑張ってるし名前、麻由香だし何とかしてあげられないかなぁって思ってた時にイベントの様子見で本社の専務が来た。その頃鈴木さんとは数人でお昼に行ったり、社内で雑談する程度の仲にはなっててイベントでもフォローしてたから仲良く見えたんだと思う。専務にどういう関係だって聞かれてどういうも何も…仕事仲間ですけどと答えてその時はそれで終わったんだけど、数日後、また専務が見えて夜に飲みに誘われた。」
「え?不倫確定!?」
「違うから!」
ドン引きで言うと速攻否定された。
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