想ゐ出写真館

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想ゐ出写真館

 都心から程近く、古くからの商店街の片隅に想ゐ出(おもいで)写真館はひっそりと佇んでいる。  店主は蝶ネクタイがチャームポイントの相模(さがみ)(まこと)。ベテランのカメラマンである。  やって来るお客様は地元の方が殆どであるが時折、訳あって遠方から訪れるお客様もいらっしゃる。 「ごめんくださぁい…」  カランコロンと鳴った扉の鐘と共に聞こえた控えめな呼び声に、カウンターで書き物仕事をしていた相模はすっと顔を上げて優しく微笑んだ。  いらしたのは若い男性だった。 「いらっしゃいませ、お客様。想ゐ出写真館にようこそ」  穏やかな声で応えて椅子から立ち上がった彼は、まるで執事のような所作で華麗に会釈した。 「あの、予約していた澤井です。すみません、早く着いてしまって…」  恐縮の様子でヘコヘコと頭を下げつつ、お客様の澤井様はシャツの胸ポケットから黒い折り鶴を取り出す。  それは特別な意味を持つ、この写真館への紹介状だった。
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