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「………、失礼ですが、何故、相模さんはここで写真館を…?貴方程の技量ならば…」
言葉を選びながらも澤井様は単刀直入に訊ねた。
続く言葉は聞かずとも分かった。
その技術力は、こじんまりとした写真館に閉じ込めておくにはあまりにも勿体無いものだった。
出来ることならば、自身のフォトスタジオに編集技術者としてヘッドハンティングしたいくらいだったが―――。
「澤井様…、私の届ける写真は、お客様の記憶の欠片なのです」
「記憶の欠片?」
そんな問い掛けに、相模は静かに物思いに頷いた。
「機械と違って我々人間はどんなに大切なことでも忘れてしまうことがあります。それは耐え難い悲しみに対する防衛でもありますが…。しかしながら、写真という記憶の欠片があれば人は思い出せるのです。願わくば、私の届けるお写真は、綺麗な記憶だけを引き出せる欠片で在りたいと思っています…」
言葉を選びながらも彼はそう告げ、不意に壁に掛かる数ある写真に視線を向けた。
そこにあるのは近隣の人々を撮った地域の想い出とも呼べる写真だった。
「…この仕事に誇りを持っているんですね」
何処か呆れたように―――、けれど納得したように彼は呟いた。
意味深に微笑む相模の想いは堅いようだった。
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