0人が本棚に入れています
本棚に追加
「この度は本当にありがとうございました」
帰り際、澤井様は改めての感謝の言葉を伝えた。
僅か二度の―――、時間にすれば合計しても二時間程度の訪問であったが、彼との対話はとても濃密な時間だった。
「こちらこそ、この度は想ゐ出写真館のご利用をありがとうございました。澤井様、またのご利用をお待ちしております…」
相模はまた執事のような華麗な所作で頭を下げ、慈悲深い笑みを浮かべる。
今一度の会釈でカランコロンとレトロガラスの扉を開いてみれば、黄昏の鮮やかな空が味わいある商店街を彩るように広がっていた。
そんなお客様の背を見送った相模は一人、小さく安堵の溜息を零しつつ、テーブルに残るコーヒーカップを流しに移す。
茶渋が付かないようにと一先ず軽く濯いで漬け置きし、店仕舞いを告げるようにカチンと扉の鍵を閉めた彼は、気合を入れるように肩を回した。
「さてさて…、残りの仕事を片付けましょうかね」
夕闇迫る薄闇の部屋の中、そんな独り言を零しながら、相模は秘密のアシスタントが待つ地下室へとトコトコと消えて行った。
最初のコメントを投稿しよう!