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「はい。少し大変なお仕事ですが宜しくお願いします。ご依頼主は宮野和也さん。奥様の環さんのドレスをこの写真の物に変更し、傍らにご両親のお姿を添えてください」
読み込んだ画像を表示して指差しながら、相模は同僚に話すかのように指示を出していく。
『ご両親のお写真データはありますか?』
「生憎、火災で消失されたそうです。環さんのスマートフォンにも写真が残ってなかったようで、遺影も苦労されたとか…」
『それはお可哀想に…。では、読み込んだ個人情報を元に国内ビックデータと照合して合成します』
「お願いします。くれぐれも警察組織のセキュリティシステムには触れないように。前回のようなニアミスは勘弁願います…」
『それは申し訳ありませんでした…』
そんな会話をしながら、相模は必要なデータ情報をマイクロSDカードから取り出し、画面の中のReMeが、インターネットから画像検索を行いながら、使えそうな写真を仕分けていく。
『…マコトさん、近隣マンションの防犯カメラから直近のご両親の画像を発見しました。立体映像を構築の上、礼装画像と合成します』
「ありがとうございます。あっと…、ReMeさん、完璧に合成すると実際の記憶との違和感が生じますので少し加工を加えましょう。そうだな…、奥様の記憶に語り掛けるような…、夢を見ているような柔らかな印象を…」
キャンバスに貼り絵をするように必要箇所を写真データから切り取っていく中、相模は考えを巡らせる。
口調や仕草は人間らしくなってきたが、人間的感覚を学習するには、まだReMeは経験値が足りていない。
アシスタントとしては、まだまだ勉強中である。
『では、印象派風にしましょうか?』
「嗚呼、それは名案です」
そんな相談を重ねつつ、画像に効果フィルターを掛け、細かな部分を手作業で描き加えていく。
次第に出来上がった写真は、ルノアールの絵画のようにその様相を温かく変えて行った。
「さて、こんなものですかねぇ」
数時間後、完成した写真に相模はホッと胸を撫で下ろす。
あとは依頼主のお気に召すかどうかである。
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