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優しい上書き
不意のチャイムが齎したのは夫からの最上の贈り物だった。
「こちらにサインお願いします」
配達員のお決まり台詞に答えて書類に印鑑を押し、荷物を受け取る。
頼んだ覚えのない自分宛ての荷物に首を傾げつつ、リビングにて包装を剥がして出てきた一冊のアルバムに更に首を傾げた。
送り主は、結婚式でお世話になったフォトスタジオの澤井さんだった。
義両親分の結婚式の写真は頼んだが、自分たちの分は辛すぎてキャンセルしたのに―――。
今から丁度二年前、結婚式の計画の最中、酷い火事で実家の建物諸共両親を亡くした。
火事の原因は隣のアパートに住んでいた老人が投げ捨てた煙草だったが、当人は証拠不十分で不起訴となり、夜逃げ同然で罪を償うこと無く逃げ果せた。
やり場のない怒りと悲しみに打ち拉がれる私を気遣って、夫は結婚式を先延ばしにしてくれたが、義両親側の催促があり、心の傷が癒え切れぬ内に挙式をせざるを得なくなった。
加えて、そんな私にまるで追い打ちを掛けるように、計画当初からずっと着たいと願っていたお色直しのドレスが挙式の直前になって、別のカップルが痴話喧嘩の末に破損させた事が発覚。
手直しでどうにか出来る状態ではなく、式の日程から諦める他無かった。
友達や義両親は、代わりの物の方が素敵だと慰めてくれたが、その言葉が寧ろ心の傷を抉った。
あのドレスは亡くなった母と一緒に選んだ特別なものだったのだから―――。
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