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「あ、届いた?」
手違いだろうかと考えて、ウェディングプランナーに文句の連絡を入れようかと思った矢先、テレワークで自宅にいた夫の和也は何だが嬉しそうに顔を出した。
「見てご覧?」
スマートフォンを握る私の手を止めながら、夫は私を抱き締めるようにしてアルバムを開いてみせた。
本当は一瞬ですら見たくなかった。
着たくもなかったドレスを着せられ、両親も写っていない写真など―――…。
けれど、視界に広がったその絵画のような己の姿に私は息を呑んだ。
自分の頭にあるのは辛いばかりの記憶の筈なのに、そこに写っていたのはあまりに幸せそうな己の姿―――…、そして、そんな自身を囲むようにその時にはもうこの世に居なかった筈の両親の姿があった。
「どうして…っ…、どうやって…っ?」
感極まって涙を零しながら私は訊ねた。
実家が全焼した所為で、両親の写真はまともに残っていなかった筈である。
葬儀に際しても遺影写真には苦労した。
私には兄弟がおらず、両親とも親戚と疎遠だった為に頼れる宛がなく、五年以上前に自治体の集まりで撮った物を何とか見つけ出して、それを合成して間に合わせたくらいだった。
「澤井さんが特別な伝を使って作ってくれたんだ。せめて写真の中だけでも環の夢を叶えたいとね…」
そんな夫の言葉に、私は嗚咽を堪えることが出来なかった。
夫を抱きしめた私は何度もありがとうと繰り返し、感謝を伝えた。
「多少はサプライズプレゼントになったかな?」
私の背を擦りながら、夫は楽しげに訊いてきた。
私は勿論だと深く頷いて答えた。
仮初だとしても、こんな素敵な贈り物はなかった。
「…和也さん、実は私からもサプライズがあるの」
涙を拭って私は戯けるように笑いながら、棚に隠していたファイルを手に取った。
そこから取り出した母子手帳とエコー写真を差し出して見せた瞬間、彼は目を剥いた。
「…嘘…っ…、本当に?」
そう確認しながら、今度は彼の方が涙を見せた。
私は今一度頷いて、それを確認した彼は歓喜の声と共に私を強く、けれど優しく抱きしめてくれた。
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