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記憶の欠片
「そうですか…、それは良かった」
レトロな空間でコーヒーを差し出しながら、相模は安堵したようにお礼を伝えに来た澤井様に会釈した。
彼曰く、余程気に入ったのか奥様は毎日のようにあの写真を眺めているそうだ。
「送られてきた画像を見た時には本当に驚きました。あの加工は画家も顔負けですよ…!羽田さんの言った通りでした!」
興奮気味に彼は身を乗り出して、キラキラと目を輝かせる。
同じカメラマンとして、その技術力には脱帽だった。
「一体、何処のソフトを使ってるんです?メーカーは?」
「それは企業秘密で…。一先ずご依頼には応えられたようで安心しました」
グイグイ来る澤井様に苦笑いしつつ、やんわりと話を締める。
あまりの人懐こさにこれ以上話すとボロを出しそうである。
――妻が遺した秘密のアシスタントReMeの存在は、決して公には出来ない。
仮想現実【RefrainMemories】は元々、都市開発や環境整備計画に対して、自然災害など現実世界で起きうるも実証実験が難しい事象への、極めて忠実な対策訓練を行うため国をあげて創られたソフトであった。
しかし、妻を壊した事故によりその開発は中断され、同時期に国内外の過激派組織が極めて現実に忠実な世界観を作り出す【RefrainMemories】を使ってテロ行為や戦争の練習をしようと画策。
悪用が懸念された事で、ReMeの――妻の生きる世界は闇に葬り去られることとなった。
本来であれば地下室にある最後のソフトも、開発中止を通達された時点で全ての機材ごと国に渡さねばならなかった。
けれど当時、国の人間として開発に携わっていた羽田さんの温情により、妻の形見として今も手元に遺してもらっている次第である。
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