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王子叫ぶ
煌びやかな城の広い空間に、第一王子の声が響く。
「レティシア公爵令嬢!お前との婚約は破棄する!!」
言われた彼女は「は?」という顔。
「婚約は王家との契約ですわ。皆様はご承知なのでしょうか?」
王家がどうしてもと言うから、契約してやったのにそれを?
と顔に書いてある。
昔から気に入らなかったんだ。
敬語を使ってはいるが、上から押さえつけるような物言いが。
「そんなもの、父上がお帰りになった時に私が話をするまで!私に行った無礼の数々、国外追放を言い渡す!!」
「はぁ…いいですわ。婚約破棄お受けいたします。追放の件は国王陛下がお帰りになってからお聞きいたしますわ」
お茶会の時もデートの時も、小言しか言わないくせに「淑女の鏡」と言われて、お高くとまっているんだろう。
こんなのと一生縛り付けられるなんてごめんだ!
何をしても肯定してくれるミラ男爵令嬢の方が、そばにいてほしい女性だ。
そう思っていた……
父上の帰城を待つまでもなく、宰相どもに取り押さえられ、粗末な服装に無理やり着替えると馬車に放り込まれた。
水のみで約4週間。
手足を縛られた状態だったから、馬車の揺れに耐えきれずに何度も吐いてよれよれ。
「アルトゥール様、今後お世話になるご夫婦のお話をしておきますね」
「ぐうぅ」
噛ませられている固い布をぎりっと噛み締めながら聞いたのは、惚れた女のために爵位を捨てて農夫になった騎士団長の話だった。
話しているのは同じ騎士の者で、最初の2時間は騎士団長だった彼を讃える言葉が延々続く。
剣術大会で7連覇を果たしただの、戦での武勲などだ。
文武に優れ人望も厚かったのに、王宮に出入りしていた農民の女に惚れ込んでしまったと残念がる。
「じゃあな」と言う一言で、2度と王都で顔を見なくなったとか。
「アホ王子を引き取ってくれという無茶な頼みを、快く引き受けて下さった方だ。粗相の無いようにお願いしますよ」
馬車の揺れと連動するようにぐらぐらする頭で理解したのはこれだけ。
馬を休ませるための休憩に無理やり用を足し、また馬車に放り込まれて移動。
もう日にちを数える気力も失せて、ただせっかく飲んだ水を吐く日が続く。
不意に止まった馬車から引きずり降ろされた。
「着きましたよ、元王太子殿下」
朧げな視界に広がる緑の中に、ぽつんと建つ2階建の一軒家が見える。
小屋のような家かと思ったが、意外としっかりしていて大きい。
粗末な格好をした大きな男が家から出てきて、こちらに向かってくる。
騎士が絶賛する例の元騎士団長殿だろうか。
「お久しぶりです!!ノアルド様!」
「おう!久しぶりだ……な?」
満面の笑みで答えた大きな男は、抱えられてやっと立たされている俺を見て顔が曇る。
情けない姿で悪かったな、もう足にも腹にも力が入らないんだ。
おまけに出てくるものなど何も無いのに、顔面蒼白で吐きそうな顔だろう。
バキッ!!
嬉しそうに寄っていった騎士が、突然後ろへ吹っ飛ぶ。
「貴様!!無抵抗の人間に一体何をした?!」
「え?」
「え?じゃねえ!!」
ドスッ!!
今度は俺を抱えていた騎士の腹を思いきり蹴り倒す。
地面に叩きつけられるかと目を瞑ったが、大きな手が俺の首の後ろを掴む。
「おい!大丈夫か?!」
大きな声が頭に響く。
口の布を取ってくれたが、言葉が出てこない。
「うっ…あぅ…う」
「ひどいな…全く騎士道はどこに捨ててきたんだバカどもめ。サキ!!来てくれ!」
女の甲高い声が聞こえたが、夜になるまで気を失う。
気を失う3秒ほどでやっと理解したことがある。
追放されたのは公爵令嬢ではなく俺の方だった。
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