0人が本棚に入れています
本棚に追加
「山本さん」
ホールからでてきた五十嵐さんが駆け寄ってくる。
「探しちゃいました。気がついたらいなかったから」
五十嵐さんはいつもと変わらない。
「すみません、誰かと話してたから」
なるべく、何事も無かったように振る舞う。自分の感情を悟られないように。
「あぁ。そうですよね、私こそごめんなさい」
五十嵐さんは横に座りながら、中学時代の友人なんだと教えてくれた。
その彼女も、美術部の知り合いの絵を見に来ていたらしい。
「山本さんの絵、素敵でしたよ」
「絵?」
一瞬、なんのことか分からなかった。そういえば、私が描いた絵を見に来たんだっけ。それだけじゃないけど。
「いいんですか?さっきの人は」
ちょっと、嫌味っぽく言ってみる。なんか、ちょっと言ってみたくなった。
今は、素直にその言葉を受け止められる余裕はなかった。
「大丈夫ですよ。彼女も別の人と来ていたみたいなので」
と軽くいなされた。
私は、
「そうですか」
と返すことしか出来なかった。もっと心がざわついた。慣れないことをするものじゃないな。と心の中で後悔していた。
それから数日経ったある日―
最初のコメントを投稿しよう!