2人が本棚に入れています
本棚に追加
お か か の 塩
思い浮かんだのは、とある調味料。精製塩は栄養素がなく身体に悪いが、天然塩は必須栄養素もあるから適度に摂らないといけない。そこで適量摂取、そして、とある作戦の為……。大量に頂くべく、マイクに近づき、少々強気に語りだす。
「そうだ……。塩がいい……。ローストビーフにはソースもいいが……、塩との相性もまた良好だ……。それも……、CMで有名なあの"お か か の 塩"がいい! 大量に……、貰おうか!」
威勢よく、豪快に言い放つ。"大量に"というのもちろん意味はある。それは……。
すると、部屋の隅から1台の荷物台車が転がってきた。そこに、"お か か の 塩"の製品デザインが印字された段ボール箱が1箱載っている。
(よしっ! あとはこれを少量の水と濃く混ぜ合わせて、手錠と鎖にまぶしてしばらくおけば……。)
箱を開けたらそこには……。何も入っていなかった……。
(何っ!? どういう事だ……。どうして何も入っていない?)
不思議に思っていると、直径1mmほどの赤い点のような光が顔の付近をキョロキョロしながら動いている事に気づいた。
そして、しばらく顔の付近をあちこちへと動いた後に、その光は額に止まった。その光が発せられている方向を見ると、2階ギャラリーの鉄柵越しに誰かが居るのが見える。
周りが薄暗く、その姿ははっきりと見えないが、建物外部から窓越しに微かに入る逆光で、そのシルエットは窺える。映画でよく見かけるライフル銃のようなものでこちらを狙っている。赤い光は銃身に取り付けられたスコープの形をした物から発せられている。
その瞬間、ここで目を覚ました時の緊迫感が瞬く間に蘇ってきた。人生で初めて銃口を向けられた事に対する恐怖。身体が思うように動かない。まるで金縛りにあったかのように。
暫くして、その狙撃手が引き金をゆっくり重く引こうとする様子がちらりと窺えた。さらに恐怖が増す。あと少し、あと少し引き金を引かれたら全てが終わる。必死に金縛り状態を振り切るべく、言葉を発した。
「も……! も……! もう一回……! や……! や……! やらせて……! 下さい……!」
無意識に出た言葉だった。まるで、命乞いをするかのように身体の底から絞り出すように発した。
しばらく沈黙が続いた後に、狙撃手は人差し指の力を抜き引き金から指をゆっくりと離したのがうっすらと見えた。
(ふーっ……。)
思わず溜め息がでた。ひとまず許してもらえた。そう思ってもいいだろう。ところが……。
最初のコメントを投稿しよう!