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「デビル」
「ご、ごめんなざい、ゆるじで……!」
出しうる限りの、みじめな嗚咽を漏らす。
俺を雑に蹴りまくる足に縋りついた瞬間、「それくらいにしとけ」と、濁った笑いが響いた。夕暮れ時の、商店街の路地裏に。
「もう金は取ったろ」
声の出元は、うちの高校が誇らない不良集団の筆頭、通称「デビル」。本名は知らない。
鏡餅みたいな色白の顔と体で、何度見ても二頭身。そこから、絵文字の筋肉みたいな腕がにょろっと生えている。アニメの雑魚キャラクターみたいだ。
デビルは、掃き潰したつっかけをパタンパタンと鳴らしながらやってきた。俺の前に立つ子分を除け、だるそうに屈む。
項垂れていると、デビルに胸ぐらを捕まれた。年齢不詳の餅顔が、にゅるっと歪みながら近付いてくる。
「これからもよろしく。俺らのATMさんよぉ」
ぎゃはは、と笑いが巻き起こる。「確かに、叩けば金が出るもんなぁ」なんて、頭の悪い歓声まで上がった。五対一で囲んでおいて、よく勝った気になれるもんだ。
ダメ押しに、腹をもう一発蹴られる。一番下っぱの仕業だ、生意気な。デビルに「それくらいにしとけっつったろ」と凄まれ、拗ねたように「っす」と肩をすくめている。
それを最後に、デビルから解放された。
そのまま、五人は路地から出ていく。脅し取った五千円の使い道について、メシだのゲーセンだのカラオケだのと喚きながら。
「くそ……」
血混じりの唾を吐いて立ち上がる。
最後の一発だけ、ぬかった。舌を軽く噛んだ。
口の端を手の甲で拭ってから、シャツの中をまさぐる。折り畳まれている分厚い紙切れが、ウエストベルトの上に乗っかっていた。デビルが俺の胸ぐらを掴んだ時、襟ぐりに放り込んでいったもの。
開くと、ここから数駅離れた場所にある公園の名前と、「22時」とあった。寝ながら書いたんじゃないかと思うような字だが、ギリ解読できる。
紙切れを畳み直し、制服のポケットに突っ込む。
スマホの黒い画面に顔を映し、傷や痣がないか確かめてから、「もう一つのバイト先」へ向かった。といっても、母さんがやっている弁当屋の売り子だが。
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