メンタルパンデミック

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 両親からの許可は案外簡単に取れた。二人とも私がアイドルをやることを喜んでくれた。  無理もない。お母さん、お父さんからしたら、生きる気力を失くした娘が自分から生きる目的を見つけてきたのだ。これ以上の喜びはないだろう。  私はかつて『無気力症候群』なるものを患った。  原因は10年間一緒に過ごしてきた飼い猫の死による強いストレスによるものだった。それから1年間学校にも行くことができず、自室に引きこもる生活が続いていた。  生きていれば誰しも別れを体験する。仕方のないことだ。そう分かっていても、10歳の頃の私は、愛するものとの別れに耐え切るほどの器を持ち合わせてはいなかった。  無気力症候群は、これ以上の悲しみに襲われれば自身を保てなくなるため、自己防衛の一環として発症したのだろう。今はそう考えている。  1年間休んだことで、心は徐々に回復していった。  久々に見た街はいつもよりどんよりとしていた。人々は一年前の私と同じようにまるで生気を失ったかのように沈んでいた。それが『インペリウム』によるものだと知ったのは、その後だった。  幸いと言っていいのか、私は一般の人に比べて、『インペリウム』の作用を受けにくかった。1年間背負ってきた『無気力症候群』が影響してのことだと医師は言う。まさか長い間、私を苦しめてきた病に助けられるとは思わなかった。  インペリウムの影響を受けにくい私は、その特性を生かして、みんなを元気にすることを誓った。気分が落ち込んだ時の苦しみは誰よりも知っている。だからこそ、私の振る舞い次第でみんなが元気になれるのならば、頑張ろうと思えた。  それが『気分上昇係』なるものを作る始まりだった。  まさかそれが転じて『アイドル活動』になるとは思ってもいなかったが。
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