メンタルパンデミック

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 アイドル活動をすることが決まったことで、私の日々は大きな変化を遂げた。  学校が終わるとすぐに米澤さんとダンススタジオに訪れ、夜遅くまで振り付けを覚えた。目指すは来月に控えたライブに出られるように仕上げること。  曲は3曲。全ての振り付けを覚え、他三人のメンバーと合わせる。  正直言ってかなりきつい。体力に自信のある方ではないため、ちゃんと踊り切れるか不安だった。大量の汗を掻いて、死んだかのうように眠りにつく。そんな毎日が続いた。  クラスのみんなに『アイドルになったこと』を告げると、揶揄われながらも応援してくれた。米澤さんは毎日ダンススタジオでトレーニングする私に触発され、代わりに気分上昇係になってクラスを盛り上げてくれた。 「まさか、ともちゃんがここまで熱心にやってくれるとは思わなかったよ」  ライブ前々日、疲れ果ててダンススタジオで寝転んでいると、ふみちゃんが視界に現れる。手にはスポーツドリンクを持っていた。それを私へと差し出す。私は状態を起こして、受け取った。たくさん運動した後の冷たいドリンクは体に染みる。  私と米澤さんの仲はこの一ヶ月で大きく変わった。学校では香代ちゃんを交えていつも一緒におり、呼び方も苗字から名前呼びに変わった。私はともちゃん、米澤さんはふみちゃんだ。 「やるからには本気ってね。それに、私が手を抜いたら三人の頑張りが無駄になるから」 「ありがとう。明日を気に新生『レリーバーズ』の誕生だ」 「レリーバーズ。いい名前だよね」 「でしょ。私たちにぴったりの名前じゃない?」  レリーバーズ。日本語に訳すと、『人々を苦しみから解放する者たち』。  インペリウムによるメンタルパンデミックを良い方向へと変え、人々に元気をもたらす。それはアイドルのあるべき姿なのだとか。 「うん。だからこそ明後日のライブは絶対に成功させようね」  準備万端。明日は休みなので、後は本番に備えるのみとなった。
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