もう一度逢う日まで

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もう一度逢う日まで

身体の怠い日が続いていた。 風邪のように熱っぽく、いつもなら 市販薬を飲んで仕事に行くけど、 病院に行った。 血液検査を受けると、 「白血病の疑いがあります。 紹介状を書きますので、大きな病院で、 精密検査を受けて下さい。」 と言われた。 翌日、仕事を休んで、 紹介状を持って市立病院へいった。 白血病と、診断された。 会社に休職届けを提出し、 さらに詳しい検査のため検査入院した。 彼には、まだ何も話してなかった。 夜になると、不安な気持が押し寄せてきて、 “このまま死んでしまうのかな” なんて不吉な考えが頭をよぎり 彼の声が聞きたくなって、電話をした。 「もしもし、遅い時間にゴメンね。」 「ん、大丈夫だよ。声聞けて嬉しいな。 この間、身体が怠いって言ってたけど、 良くなった?」 「うん、大丈夫。仕事頑張りすぎたみたい。 風邪気味だったから、3日休ませてもらったら、元気になった。」 「なら、良かった。」 「あ、でも、外せない仕事があって、先輩に代わってもらったから、 今度会う約束してた日、 仕事になっちゃったの。ゴメンね。」 「そっか。残念だけど、仕方ないね。 また、休みの合う日に。 シフト決まったら、教えて。 僕も連絡するから。 じゃ、今日は、夜更かししないで、 もう、寝ましょう。」 「はい、分かりました。 じゃ、お休みなさい。」 「お休み、良い夢見てね。」 彼は、いつも優しい。 声を聞くだけで安心する。 嘘をついてしまったけど、 声を聞けたから眠れそう。 ほんとは、会いたい。 もう、会社は休職したから、 シフトはないんだよ。 でも、その話をしたら、 あなたは夜中でも 飛んで来るかもしれない。 検査入院したと言ったら、 毎日病院にお見舞いに来るかもしれない。 そのくらい、彼は優しいし、 私を大事に想ってくれている。 彼なら、大丈夫だよって、 いっぱいいっぱい励ましてくれる。 治るまで。 だから、結果が分かるまで少し待って。 ちゃんと話すから…。 数日後、検査結果が出た。 期待した治る良性ではなく、 治りにくい悪性だった。 母の遠縁に当たる人が骨髄移植のドナーになってくれることになり、 その人が遠くから見舞いに来た。 親戚とはいえ、それまで会ったこともない人。 「お母さん、今いらした方、 独身なのね。 私に会いにみえたのね。 移植手術したら、私があの方のために何かするべきよね。 身体の一部を分けていただくんだもの。」 「病気を治すことが先だわ。 手術が上手くいってから考えましょ。」 母は、私がお付き合いしている人がいることを知っているから、気を遣っている。 その時私は決めた。 彼と別れようと。 検査入院を終えて家に戻ると、 身辺整理をした。 彼の住所や連絡先が書かれている物は 全てシュレッダーにかけて捨てた。 携帯やパソコンに残っているメールやlineも削除した。 彼との思い出を消すようで、 辛くて何度も涙が出た。 でも、こうするしかない。 移植手術で良くなっても、一生薬を飲み続けなければならないだろう。 あの人は、どんな女性か見ておきたくてわざわざ来たのだ。 生きられる可能性が見つかったのに、 私は日に日に憂鬱になっていった。 彼と会う日を決めた。 一緒に買ったのと同じ腕時計も買った。 後は、サヨナラを告げるだけ。 そしたら、私は、生きていても、 心は死んでしまうかもしれない。 それでも、いいと思った。 そんな罰当たりな考えをしたから、 彼にサヨナラした日から 急に病状が悪化して、 移植手術は中止になった。 私はほっとした。 もう、彼と会えなくても これからは、彼のことだけ想っていられる。 ドナーの方には申し訳ないけど、 私に触れて欲しくなかった。 あの人の骨髄を、 私の身体に入れてほしくなかった。 彼の声が好き。 優しく触れる手が好き。 大事そうに柔らかく抱きしめて 「愛してる」と言って欲しいのは、 彼だけ… もう、今世では会えないけれど 必ずまたあなたを見つける。 また会う時まで、 私のことを忘れないで。
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