9.ヤキモチ

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9.ヤキモチ

✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼ 「先生、今日はごめんね……。なかなか連絡が出来なくて」 蓮と別れて自宅に避難してから急いで先生に電話をかけた。 結局、蓮はあの後自宅までついてきた。 私を紳士的に家まで送り届けたつもりなのか。 それとも、本気で先生との仲を引き裂くつもりなのだろうか。 ……いや、考える必要もない。 彼の選択は間違いなく後者。 『何か連絡出来ない事情があったんでしょ』 「あ……、うん」 『その代わり、何処かで必ず埋め合わせしてね』 「勿論! 絶対、ぜーったいするからね!」 先生はいつも冷静だ。 心が狭い誰かさんとは違って、目の前で彼女の肩を抱かれたくらいでは簡単に動揺しない。 これが蓮なら、間違いなく相手の襟元を掴んで拳を上げるだろう。 性格を知り尽くしてる分、考えなくても目に見えている。 「先生……」 『……うん?』 「柊くんにヤキモチ妬いちゃった?」 私が蓮に肩を抱かれた時の心境が知りたかった。 先生は感情を取り乱したりしないから、こうやって聞き出さないとわからない。 勿論、ヤキモチを妬いて欲しい。 『妬いたよ。でも、教師という立場上、表情には出せないし』 「うん、わかってる」 ーーそう、わかってる。 だけど、男は蓮しか知らない分、いまこの瞬間さえもう少しムキになって欲しかった。 教師としての対応は正解だと思うけど、その冷静さが少し物足りなくてたまにもどかしく感じる。 『何となく……。いや、俺の勘なんだけど。柊くんってさ、梓に気があるんじゃないの?』 一瞬ドキッとした。 ズバリまさかの正解なのだが……。 「へっ? 何で?」 先生の気持ちを汲んでわざとすっとぼけた。 確かに蓮の言動から推測できる。 『柊くん、普段はあんなにいい子なのに、今日は梓が一人で職員室に行くのを嫌そうにしていたから』 「プッ……。柊くんがいい子だなんて」 『去年担任だったから彼の事はよく知ってるよ。勉強面ではトップクラスだし、素直だし、愛想がいいし、他の先生にも好かれているし』 「えっ、あの蓮が勉強面でトップクラス?」 『ひょっとして、柊くんの事を蓮って呼んでるの?』 「あっ、みんなが柊くんの事をそう呼んでいるから……つい」 しまった……。 先生と電話中だと言うのに、ついボロが。 慣れというものは非常に危険。 でも、バカでエロで意地悪な蓮がクラスでトップの成績? 信じられない。 レベルの低い会話に野性剥き出しの本能。 それに、夜遊びばかりしているからてっきりバカだと思っていた。 先生達がテストの答案を返却する時に褒めるどころか『前回よりちょっとだけ点数が落ちたな』しか言わないから、勉強が出来るかどうかさえわかんないや。
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