12.根拠のない噂

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12.根拠のない噂

蓮の抱きつき事件を境に、クラスメイトの見方が変わった。 イケメントリオで有名な蓮と別れた時は、校内でちょっとした話題に。 それは、誰もが長い交際を知っていたから。 《二人はやり直そうとしている》 いつしか根拠のない噂が流れ始めた。 まだ小さな火種だが、何となく消える予感がしない。 先生との交際を隠すには都合がいい噂だけど、これが万が一先生の耳に入ってしまったらと思うと……。 今日はあいにく数学の授業がない。 だから、下校時刻まで先生への連絡手段がない。 しかも、学校はスマホの使用禁止。 校内では電源を切るのがルール。 万が一使用が見つかれば、没収される上に職員室へ呼び出されて説教される。 返却されるのはその後。 だから、先生との連絡は無難なメモにしていた。 どうかこんなバカげた噂が先生の耳に届きませんように……。 蓮と再び噂になったあの日から、同じクラスで蓮狙いの花音から冷たい視線が送られるようになった。 花音はスタイル抜群。 大きなクリクリの瞳でブラウンのカラコン使用。 色白でほんのり茶髪でロングヘアーで巻き髪。 パッ目を引くキレイ系の美人だ。 多分男は花音みたいなセクシー美人が好みだろう。 しかし、本当の姿は男の前ではぶりっ子。 気がない男子にも甘い声を出してベタベタ触る。 どうやら男にはいい顔をするタイプらしい。 実際はボス。 見た目がギャル系な花音グループの中で、彼女はリーダー的存在。 気が強くて、口が悪くて、自由人。 思った事をすぐに吐き出してしまう毒舌タイプだ。 正直、花音の口攻撃が怖くて女子は誰も逆らえない。 何故なら、彼女に口を出した瞬間から嫌がらせのターゲットになってしまうから。 悔しい事に、男どもは仮面を剥がした後の姿を知らない。 だから、花音をベタ褒めする男どもの会話を耳にすると虫唾が走る。 そんな花音は1年の頃から蓮狙い。 高校に入学してからすぐに蓮と付き合い始めた私とは、当然の如く犬猿の仲。 蓮と別れてから彼女の気持ちは一旦治まったものの、先日の一件で再び気持ちを逆撫でしてしまったらしい。 蓮はそんな事も知らずに、今日もストーカーのように私を追い回してくる。 唯一、トイレの時だけが私に与えられた自由時間。 別れてから距離を置いていたし、先生と付き合い始めたから少し忘れていたけど……。 蓮の執着心ははっきり言って異常だ。 そんな毎日に疲弊しながらも、トイレから出て来たばかりの私に、蓮が率いるイケメントリオの一員であるワイルド系イケメンの大和が声をかけてきた。 「おぅ、梓。久しぶりじゃん」 「あっ、大和! 最近全然見かけなかったけど、元気だった?」 「んー、元気。俺らは校舎の棟が違うからあまり会わないよな。蓮学校に来てる?」 「いるいる。一日中私の傍から離れないよ」 大和とは、蓮と交際していた時にみんなで一緒に遊んでいた。 別れてからすっかり疎遠になっていたけど、久しぶりに話したらあの頃の感覚が自然と戻ってきた。 「マジか。あいつ、まだ梓を諦めてねーの?」 「大和からも何か言ってよ……」 「また付き合ってやればいいじゃん」 「それは無理!」 「何で?」 「ううっ、それは……」 復縁出来ない理由を突っ込まれても言い返せない。 秘密の恋愛はどの角度からも私を苦しめている。
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