16.カッコイイ蓮の姿

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16.カッコイイ蓮の姿

ーー体育の授業中。 花音から突き刺さる冷たい目線は、時間と共にじわじわと痛みを増していく。 でも、今日は仕方ない。 花音が水をかけてこなければ、蓮にジャージを借りる事はなかったのだから。 しかも、私が貸してくれとおねだりした訳じゃないし。 だけど、このジャージ蓮の香りがする。 まるで腕の中に包まれているみたいに。 ついこの前まで間近で嗅いでいたのに。 ……なんか、懐かしい。 今日の授業はバスケ。 体育館のスペースを半々にして男女別々のコートで試合をしている。 暫く出番が回って来ないから、コートの外側で紬と一緒に座って雑談をしていた。 最初は女子チームを応援していたけど、次第に気迫溢れる男子チームの方へ目が奪わた。 紺色のジャージにナンバーを付けている他の男子に対して、蓮は白い体操着の上から黄緑のナンバーをつけているから一際目立つ。 しかも、蓮はバスケ部出身。 身長は180センチ近くはあるから、何処に居ても目立つ。 蓮はプレイ中の生徒の中でもズバ抜けて上手い。 リズミカルにボールを弾ませる瞬発力は、プレイヤーだけでなく、待機している女子達の目線も一斉に引き寄せる。 蓮にボールが回ると、相手プレイヤーは一瞬腰が引ける。 瞬息なパスに、リズミカルなドリブルに、相手の隙をついたシュートにと、多彩なプレイに自然と応援している自分がいた。 蓮は、本当に本当にカッコイイ。 並んで座っている5人先の花音に目を向けると、目からハートのビームを発している。 ーーあれは、高校に入学してから1ヶ月が経とうとしていた、ある日の放課後。 つまり、今から2年前の一年生の春。 学校帰りに、机のフックにかけていたお弁当箱を持ち忘れた事に気付いて、来た道をUターンして教室に戻った。 すると、同じクラスの蓮は耳からイヤホンのコードをぶら下げて音楽を聴いていた。 窓へと寄りかかり、黄金色の夕陽を浴びながら外の景色を眺めている姿は、絵になってもおかしくないほどサマになっていた。 あまりの美しさに胸がドキンと鳴った。 校内でアイドル的存在の蓮がいま目の前に。 しかも、一人きり。 邪魔する人なんてここにはいない。 入学当初から蓮に一目惚れしていた私には、願っても無いチャンスだった。 「柊くん……、帰らないの?」 「……」 後方扉から思い切って声をかけた。 これだけでも心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張している。 でも、音楽のボリュームが大きいのか蓮は私に気付かない。 「柊くん?」 教室に入ってからそっと近付き、自分の存在を知らせるように蓮の腕に触れた。 蓮はそこで私が傍にいる事に気付く。 目と目が合った瞬間、鼓動は高まっていき、顔はゆでダコ以上に赤くなった。 「……あれ、菊池。まだ学校に居たの?」 「私の名前、知ってたんだ」 「ははっ、女子の名前は全員覚えてるよ」 と、イヤホンを外して冗談を交えながら私に笑いかけている。 毎日女子からキャーキャー騒がれている蓮がいま私の為だけに。 それだけでも嬉しくて失神しそうになった。 何故なら平々凡々な私からすると、彼は手の届かない存在に思えていたから。
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