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 眼科に入ると、診察開始数分前で待合室に人が大勢いた。たいして経っていないはずなのに、眠っている老人がいる。順番が来たらしく看護師が大きな声で名を呼び、揺するが目をあけない。突然、その隣の中年の女性も眠ってしまった。ここにももう入り込んでいる。  先生は大丈夫だろうか。手遅れになっては富士田が困る。 (ミケ、この看護師(ひと)についてって、奥の部屋のメガネの医師(せんせい)のところへ早く。医師を頼む) (わかった)  俺はふらついたふりで看護師の肩に手を置く。 「大丈夫ですか? 座っててください。三十分ほどでお呼びしますから」  三十分しないうちに名が呼ばれた。 「ちゃんと目薬をさしていたのかな?」 「さしていたんですけど、左目が」 「あ~、ホントだね。取っちゃおう」  棚橋医師は富士田の左目にピンセットを近づける。いつもと同じドライアイの処置だ。いつも通りの医師(せんせい)だった。(間に合ってよかった。ミケ、頼んだぞ)と心の中でつぶやいた。 「どう?」 「はい。お蔭で痛みが取れました。ありがとうございます」 「ヒアルロン酸が前の二倍入った目薬を出しておくから、忘れずにさすこと」  診察室を出ると待合室で眠りこけた患者(ひと)が増えていた。それから近くの総合病院に向かった。
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