勇敢な空手オタクの玲 後編

2/2
138人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
この時すでに佐竹次郎が胸元から出した黒いリボルバーの銃口は カチッ……! 「おーっと、動くなよ~?嬢ちゃん……」 確実に玲の背中へと向けられていたので こんな間近で背後を取られた玲は勿論、一歩も動く事が出来ないけれど だからと言ってこのまま佐竹に撃ち殺される訳にはいかないから、とにかく今すぐ勇気を出して 「あのっ!こんな事をすれば、璃音さんが怒ると思いますよ? た、た、例え皆さんが!私を殺した証拠を全然残していなくても、 絶対にそのぉ、璃音さんは、えっと かなり!物凄く怒ると思います!」 と残念すぎる意味不明な命乞いをしてみたが…… 「なんだいそりゃ!小学生の弁論大会か?」 やはり結果は玲の惨敗だったから、 いつピストルの引き金を引かれてもおかしくない危険な状況で 何がなんでも助かりたい玲は、なんとかして奇跡を起こせないものかと 残念な頭をフル回転させていたけれど、これが負の連鎖と言う物なのか、 それとも まさにこれそこが、ヘタレの悲しい運命なのか、 今の玲にとっては、どっちでも変わらない事かもしれないが…… とにかくこの後、唐突に! 「おやおや~可愛いお嬢さん、なんだかとっても残念ですねぇ、 あの時に勇気を出して騎乗位を頑張ってくれたら~命だけは助けてあげたのに~」 なんと、このタイミングで いきなり大きな階段の踊り場に現れた仮面のエスパーから 「でもまぁ佐竹組長は~貴女の様にパッとしない地味な女には 全くぜんぜん興味はありませんからねぇ。御愁傷様でした~、ウフフフ~」 あいかわらず気持ちが悪い裏声で 早くも『お悔やみ』を言われてしまったので…… (どうしよう、もうこうなった以上は 最強の必殺技であるダブルキックを同時進行で 佐竹とエスパーの後頭部にカマして逃げるしかないよね?) こうして遂にヤケを起こしたヘタレの玲は 最期までキックに(こだわ)る勇敢な空手オタクとしての人生を 迷路みたいな画廊の中で、ヒッソリと終わらせる覚悟を無理やり決めたけど やっぱりそんな事よりも、人生の最後は何がなんでも絶対に 大好きな璃音に感謝の気持ちを言い残したかったから…… 「悪いな~嬢ちゃん、今夜必ず璃音も殺して お前の隣に埋めてやるから、二人共あの世で幸せになってくれや」 と最後までムカつく佐竹が何かを喋った後すぐに シーンと静かな画廊の中で…… カチャッ!とピストルのトリガーが引かれるイヤな音を聞きながら (ごめんね璃音さん…… やっぱり、ぼっちの私に奇跡は起こせませんでした…… でも私は貴方の事が誰よりも大好きだから、天国に行ったら 毎日ずっと璃音さんの幸せを、草葉の陰から祈っていますね。 じゃあ私は先に行くけど、どうか幸せになってください璃音さん、さようなら……) まるで少女マンガのヒロインが残した遺書の様に、 大好きな璃音に向かって心の中で感謝と別れを告げた玲は 次の瞬間、一か八かの大勝負をする為に、 ピストルを持った佐竹に背中を向けたままの姿で、意味不明なダブルキックの構えに入ったが やはりこの後、薄暗い画廊の中は無情にも…… パーン!パーン!パーン! と乾いた3発の銃声が響き渡っていた。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!