一条玲の憂鬱

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一条玲の憂鬱

今日も窓からオレンジ色の西陽(にしび)が差して キーンコーン カーンコーンとレトロなチャイムが鳴り響き、 「じゃあ これでロングホームを終わりますが、 英語のテストは明後日(あさって)だから、皆しっかり勉強しておけよ~」 と担任の犬川先生がテストの話をした後で教室を出ていって、 そしてやっと長い長い授業が終わった3年B組の教室は…… ***** 「はぁ、来週は英語の小テストかぁ…… なんか最近、テストばっかでダルくない?」 「だよね~…3日前に漢字のテストが終わったばっかなのにね~」 て感じで今日もワイワイガヤガヤと 賑やかな雰囲気に包まれているけれど、 そんな事よりも この物語の主人公である一条玲は…… 「…って言うか今日は皆でカラオケに行こうよ!」 「行く行く~!」 と楽しそうに会話をしているクラスメイトの隣を無言ですり抜けながら 一人で寂しく教室を出ていく『ぼっち』の孤独な生徒だから 今日も元気に無言でサッサと靴箱に向かい、 そしてトットと自転車に乗って桜が丘高校の敷地を出ていったけど どうして玲は、こんなにも分かりやすい『ぼっち』なのか それはとても単純な事が理由なので、ここで少し玲の事を説明しておこう。 ***** 現在18歳の一条玲(いちじょうれい)は どこにでも居る ごくごく普通の高校3年生であり、 身長は160センチで体重が45キロの一般的な女子校生だけど 残念な事に幼稚園の頃からめっちゃヘタレな性格で、 男女を問わず人見知りが激しくて、 しかも『人』とのコミュニケーションを取る事が凄く苦手だったので ふと気が付けば立派なオタクになっていて…… 自分でも気づかぬ間に万年ぼっちで友達ゼロの 残念すぎるコミュ障高校生にステップアップをしていたから ***** そりゃあ勿論どこにも寄る所がない玲は、 もちろん今日の放課後も、 一人ぼっちで自転車に乗って帰宅をしていたが、 この後いきなり制服のポケットに僅かな弱い振動が走り、 そして、ブルルルルッ!ブルルルルッ! とガラケー的な携帯電話に珍しく、 母親からのバイブ着信が入った事に気が付いたので (えっと、この電話はきっとアレの事だから ほんとはこの着信を思いっ切り無視したいけど、 もしも私がこの電話を取らなかったら その時は…… 私が出る迄、ずーーっとママは電話を掛け続けてくるから 残念だけど、この着信を無視する選択肢は無いんだよね~) と心の中で盛大な溜め息をつきながらもこの後すぐに、 限度と言うものを全く知らないアメリカ人の母親マリーを刺激しない為、 とりあえず一旦自転車を止めた玲は渋々電話に出てみると…… 「もしもし玲ちゃ~ん?学校 お疲れ様~、 今日から玲ちゃんはアルバイトでしょ~? 色々と準備があるから早く帰って来てね~」 「うん、わかった……」 こうして今日も無駄に明るいマリーの話は玲が思っていた通り 昨日の夜に突然言われたアルバイトの件である事が分かったけれど やはりそんな事よりも…… (はぁ…めっちゃ憂鬱だなぁ…… コミュ障&万年ぼっちの残念な私に 接客業とか絶対無理だと思うんですけど~) とは言えないヘタレの玲が 親に反抗するなんて事は絶対に有りえないのだから…… 一方的に喋り続ける母親との会話をなんとか終わらせた玲はこの後すぐに、 再び自転車を運転しながら桜が丘の自宅へと向かう事しか出来なかった。
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