2、パパはママだがパパのパパはパパ

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2、パパはママだがパパのパパはパパ

 とるものもとりあえず、二人を家に招いた。急だったため、気の利いたものはない。仕方なくお茶うけにギョニソをだした。  二人とも夢中で食べている。  モカは平太の視線に、顔が真っ赤だ。 「すみません、その、おいしくて」  平太は考えた。  美しい親子が何か事件にまきこまれ、誰かに追われている。(しかもお腹を空かせて)  そうでもなければいきなり会ったばかりの人間の家に来たりしない。そばに置いてほしいなど言ったりしない。  こんな品の良さそうな親子がギョニソにがっつかない。 「この家は僕以外誰もいないので安心してください。自分で言うのもなんですが、無害ナンバーワン! 精神年齢が小二なんて言われるくらい、悲しいほどの人畜無害なんで安心してくださいあはは!」  やたらでかい声で宣言し、笑った。モカはくすりとも笑わない。マロンは機嫌が悪そうだ。  すべった。あげく、子どもがぐずりだした。 「うん、眠いね。抱っこしようね」  膝にだっこしてトントンすると、マロンはおとなしくなった。  子どもを寝かしつける聖母のような姿に、平太はほうっ、とみとれた。 「っと、買い物に行ってきます。うち今何もなくて。何か食べたいものはありませんか?」  うとうとしているマロンが、モカに何かごにょごにょと言った。それを聞いたモカは、平太におずおずと伝えた。 「あの、もし、あの、さしつかえなければ……ごはんとスープと、野菜とお肉がはいってて」 「んんん、なんでしょうか。スープにごはん?」  犬おじやの画像がトップにでているスマホの画面を変えようとしていると、のぞきこんだモカが「これです」と画像を指さす。 「これならすぐできますよ」  わんこ用も人間用も、おじやなら平太でも簡単に作ることができる。  美人がまた思いつめたような顔つきをしている。 「……あの、私のほうから置いてほしいといっておいて、なんですが、ふだんからこんな風に簡単に知らない人間を家にいれるんですか。子連れとはいえ、私が危ない男だったらどうするつもりですか」  ん? 男?  平太の頭の中は疑問符でいっぱいだった。  モカの第一印象は小柄なかわいい人。どう見ても華奢なタイプの男性にみえた。  しかしマロンはモカを「ママ」と呼ぶ。だからボーイッシュな女性なのに、男性と勘違いするなんて失礼しました、と平太は素直に反省していたのだ。でも今確か、自分で「男」と言っている。 (そうか、モカさんはマロンくんの父親兼母親、男手ひとつで小さいマロンくんを育てていて、そこには何かとてつもなく深い事情があってママでありパパであり、こんな田舎にやってきたってわけに違いない) 「平太さん、聞いてます? 平太さん」  平太は心から言った。 「おひとりでお子さんをつれて潜伏、大変ですね」 「は? せんぷく?」 「……ママは一人じゃないよ。パパいるよ。みんないて仲良しだよ」  寝ていたはずのマロンが急にはきはきと話しだす。 (パパ、パパがママで、別にパパがいて……。いや、パパだろうがママだろうが困っている立場であるのは間違いない) 「あ、そういえば汗かいてません? 昨日は寒かったのに今日は急に暑くなりましたよねー? お風呂いれましょうか。さっきも言いましたが、この家だったら好きなだけいてくれていいんで」 困っている人を助けるのだ。パパがパパで、ママ、パパ、美人のパパ、いやママ。ママにはパパがいる。パパとママは愛し合っている。よくわからないが、なんだか胸が痛むぞ。
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