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その夜もこれまでと同じく、期待しても虚しいだけだろうと思っていた。
しかし夜半過ぎ、モカは平太のもとにやってきた。
「平太さん」
「……はい」
布団の上に正座で迎えた平太に、モカはすっと近づき、その膝に手を乗せる。平太は勝手に後方二メートルへふっとんだ。
「え」
「いやその、お話しがあるのであれば、離れていても十分聞こえますんで、どうぞ」
部屋のすみからもごもごと言う。
「平太さ」
距離をつめられるとまたその分移動した。
近くに来られると理性が保てない。マロンの目がある昼間なら、いくら近くにいても何も起こりえない。しかし二人きりの密室の夜、勝手に妄想していろいろパンパンに高まってしまっている平太には、このようなシチュエーションは刺激が強すぎる。
近づこうとすれば不自然に離れていく平太に、モカは戸惑い、暗い顔になる。
「やっぱりだめ、ですか」
沈んだ声でモカは言った。
「いいんです。わかってるんです。足りないって。私は半端もので、落ちこぼれですから。先祖代々、種として受け継いだはずの究極のスキル、『あざとさ』が私には圧倒的に不足している、わかっています」
モカは肩を落とす。
「???」
「魅力がないんです。見た目や仕草のかわいさ、わがまま放題でもついつい許してしまう、『だってかわいいんだもん! 何しても許されるんだもん!』なスキル、一族が当たり前のようにもっている天性の才能がなさすぎる。平太さんレベルでさえ誘惑することもできない」
レベル?
「もしもし、モカさ」
驚きつつ、この人こんなにいっぱいしゃべれるんだ、と平太は思った。平太の呼びかけにこたえず、モカはひとり言のようにしゃべり続ける。
「媚びもドヘタ。……でも童貞で恋愛経験のない平太さんなら、私でもイケると思ったのにな……」
(なんで童貞ってわかったんだろう)
「見てください」
モカは、いきなりシャツをたくしあげ、パジャマの下をずらした。
ブルーのストライプ、素材はコットン、そしてサイドは紐。
「先日のお詫びに、今日は勝負下着を用意しました」
平太はもんどりうって後ろに倒れ、頭を床に強打した。
「前回は疲れて睡魔に負け、着替えるヒマすらありませんでした。ええ、言いたいことはわかっています。これは煽情的ではありません。もっと、なんというか黒とかレースとか、面積が極めて少ないものとか、スケスケとか、わかりやすいエロが必要とされているということ、理解はしているんです。でも、でもそういうの、似合わないし恥ずかしいし自分的にはこれが精いっぱいで、――」
言い訳やらネガティブやらを、暗い小声早口で言い続けるモカは、平太のことなど見ていない。一方平太は、ぶるぶると悶絶し、息も絶え絶えだ。
「ドまんなか、っす」
平太はなんとか思いを口にする。一言いってしまえば、後は怒涛のように止まらない。モカと同様、小声早口でまくしたてる。
「なんすか、そのかわいいやつ、かわいいぱんつは!! かわいいモカさんがそんなの履いたら、どうすれば? もはや害です、かわいいの暴力!! 有罪!!」
「えっ……、それはつまり、えっ?」
半信半疑で尋ねるモカが著しくかわいい。平太はこくこくと必死にうなずく。
モカは平太に詰めよった。
「ひょっとして、脱がしたく、なり、ます?」
平太は首がちぎれそうになるくらい激しくうなずく。
それを見たモカは、心から安心したような、そしてはじらいを隠しきれない様子で、表情をゆるませた。
「本当にそうだったら、すごく、うれしい」
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