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ヒイヒイ言いながらもなんとか家につき、急ぎ暖房をいれた。おやつ袋の口をおそるおそるあける。
大小のポメラニアンはぶるぶる震え、しっぽもしょんもりしている。袋を解放するとおそるおそるでてきて、すぐに家具のかげに身を隠した。
心が痛んだ平太は「僕の名前は凡野平太。悪い奴じゃないからっ、何もしないからっ! ねっ?」とわんこたちに向かって必死に説明する。
まるで、だまして無理やり相手を家に連れこんだヤリモク男のような気分だった。恋人いない歴=年齢で、誰かを家に連れこもうと画策したことすらなかったが、たぶん似たようなものだ。
そばにいると怖がらせるだけだと考え、部屋に二匹を残しキッチンをあさった、家に合ったありあわせの食材をかきあつめ、ネットでみつけたレシピで小型犬のためのごはんを作った。
(いぬおじや、食べてくれるかな)
ちょうどよく冷ましたそれをうつわによそって部屋に届け、戸を閉める。廊下から、中の様子を伺う。しばらくすると二匹は家具の影から姿を現し、平太の用意した食事に近づいた。ふんふんと匂いをかぎ、そろそろと口をつけた。
ッシャッ、とガッツポーズをする。食事をとったのを見て、安心した。
次にするべきは、迷子犬の捜索がでていないか、ネットで調べてみることだった。数々の捜索願いがヒットするものの、二匹に該当するものはみつけられなかった。
こんなにかわいい二匹なのだ。飼い主は今ごろ死ぬほど心配しているはずだ。それを思うと胸が痛かった。明日朝イチで警察に電話しよう。
飼い主の人、安心してください。
二匹は無事でここにいます。絶対お返しします。
平太は隙間風がはいる廊下で毛布にくるまった。ここだと室内で何か異変があればすぐ気づくことができる。くしゃみをかみ殺しながら、そのまま寝てしまった。
ふわふわの毛の感覚がした。
さっきまでとても寒かったはずが、今はとてもぬくぬく。かわいいなあ、やわらかいなあ。
小さな舌。あたたく湿った鼻。
「すぐにおうちに戻してあげるからね」
平太がそう言うと腕の中の幸せのかたまりがくうん、と返事をした。ぺろぺろと舐めてきた。とても柔らかな毛に指が沈む。手の平におさまるのは、ドキッとするほど小さくて華奢な骨格。
こんな小さな存在が、確かに生きていることに感動する。力の加減を誤れば壊してしまいそう。
沸き上がってくるのは、庇護欲と独占欲。それから爆発するような愛しさ。
「うふふ、うふっうふふ」
もう返したくないな、僕だけの子になればいいのに。大事に大事に一生護るのに。にやにやするとふわふわが頬にあたり、くすぐったい。全部が満たされてポカポカと温泉にはいったような気持ち。
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